八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」2019年7月18日放送分

ゲスト:小山英明さん(株式会社リュードヴァン 代表取締役)
「日本のワインを愛する会」初のワイナリーツアーに合わせて収録は長野駅前のホテルメトロポリタンから。
東御市のワイナリー、リュードヴァン代表小山英明さんがゲストの2回目です。
ほろ酔いトークはさらに加速し、初志貫徹「ワインと共に暮らす」を熱く語ります。

辰巳:前回に引き続きまして、今回も小山英明さんをお迎えしております
以前は「ソーヴィニョン・ブランの魔術師」とか「天才醸造家」とかってね(小山さん脇で笑ってます)、
いろんな肩書きがありましたけど、ご自分的にはどうなんですか?

小山:あ、僕ですか?もちろんソーヴィニョン・ブランで火がついたから代名詞みたいになってますけど、
ソーヴィニョン・ブランだけじゃなくって、例えば当社のラインアップで言えば、
シャルドネからソーヴィニョン・ブラン、ブルゴーニュのピノ・ノワールからボルドー系のワイン、
あるいはシャンパーニュに準ずるようなスパークリングからシードルも造ってるし。
2016年は貴腐ワイン、灰カビがいっぱい出ましてね笑。
だからソーヴィニョンだけじゃなくて、ありとあらゆるものが造れるっちゃナンですけど、はい。

辰巳:改めて、(小山さんのワイナリーがあるのは)長野県の東御市、軽井沢からちょっと西の方に行って小諸を超えたあたりですかね。
今ねー日本のワイン業界では東御ってのはものすごい注目されている場所でね、玉村豊男さんが始めたヴィラデストを皮切りに、
あ、マンズワインさんが小諸でもう50年近くやってらっしゃいますね。
そんな中で「リュー・ド・ヴァン」というのは2010年に始められた。”ワインの小径”とかそういう意味ですよね?

小山:まぁワインの小径なんですけど
「1本の通りからブドウを造りワインを造り、そこにワインを嗜んで暮らしていける環境や文化がこの通りから始まってほしい」
という思いを込めてこの名前をつけました

辰巳:あのー、ワイナリーの前の径のことですか?

小山:笑笑、そうです。ブルゴーニュ行って”Route de Grandcru”の看板の写真撮ってきて、それをそーっとトレースさせてもらって
“Route de Grandcru”→”Rue de Vin”に変えさせていただきました笑
道路標識みたいなのをワイナリーの前につけさせてもらってます。

辰巳:今この番組はJR長野駅に隣接するホテルメトロポリタンの部屋をお借りして収録してるんですけども
(リュー・ド・ヴァンは)この長野市からどのくらいかかります?

小山:しなの鉄道でだいたい1時間ぐらい、高速道路使っても1時間弱ぐらい。
新幹線だと上田まで15分でそこから各駅で3駅(10分)ぐらいなので、今日は僕もそのルートで来ました。
やっぱ新幹線使うと早いですね。

(話変わります)

辰巳:もともと山梨のワイナリー入って、長野のワイナリーで一応仕事して、名前が知られて。そこで独立した!?

小山:まぁそこのワインメーカーで一生いられると思ったんですけど、、、

辰巳:あづみアップルですね、本当にあの時は注目されましたもんね
「すごい造り手が彗星の如く現れた!」みたいな。

小山:そして彗星の如く去って行った笑笑。2年しかいなかった笑

辰巳:それが15~16年前でしたよね?それで去る時には次の計画はあったんですか?

小山:いや、そこを辞めた時にはなかったです。

辰巳:喧嘩したんですか?

小山:喧嘩はしてないですけど意見が合わなくて。
(ここから前回の続きが始まります)
いいブドウ供給してくれる農家さんいても、ワイン用ブドウを造って暮らしていけるような環境ではない。
みんな農家の威信にかけて丹精込めていいブドウを造ってるけれど、1軒あたりの農家さんの畑は本当に小さいんですよ。
そういう人たちが十何名いて、ソーヴィニョン・ブランやシャルドネを供給している。
ってことはあまり魅力的ではない、割りに合う仕事ではない。

辰巳:それはワインメーカーとしての見解?その時から農家さんのことを憂いていた?

小山:産業として先がないなと。
農家さんが少量しかブドウを造ってなくて、それも安い値段で買い叩かれてるとすれば、それは魅力的な産業ではないから跡取りがいない。
跡取りがいなければ、この産業は恒久的な産業にならない。
長野県は気候がそこそこいいんで、丹精込めればいいブドウができるんですよ。でもワイン造りって製造業ですからブドウは原材料なんです。
原材料というのは安く大量に造らなければ産業にならないんです。自動車1台作るのにネジ1本1万円しますなんていったら話にならないでしょう?
だから僕らのブドウ、ワインもそうだったんですよ。どっかにシワ寄せがかかってる。
だから僕はここ(あづみアップル)でワインとともに暮らしたいと思ったけれど、
農家のじぃちゃんたちがこのままだったらブドウを供給できなくなるぞと。
そういうのをなんとか僕らで守らなければいけないんじゃないかーって思っても、会社が興味がなかったみたいで笑、、、
それは意見が分かれればいられなくなります

辰巳:会社はどっかJAさんとかじゃなかった?

小山:そうです。JAさんっていってもいろいろですから。その時に率いている人たちの考えで違います。
今僕らは東御の農協さんとすごーく仲良く、ワイン産地にしていこうと、、、。
もしかしたら僕も今より20歳近く若かったし、当時会社を率いている人たちの価値観からしたら、僕らが言ってるようなことがまだ理解できない時代だったかもしれないです。
今お付き合いしてもらってる東御の農協の人たちは、僕が安曇野にいた時よりずっと世代が新しい人たちだし、僕もキャリアを積んで信用もあるし年もとってきたし。
だから聞いてくれてるのかもしれない。もし若造が言っていたら、、、。あの時は時代が早かったのかもしれないですね。
このままだったらワイン造りが文化にならないな、ワイン用ブドウを造って産業に成り立つ仕組みを作らなきゃいけないと。

辰巳:でも、最初からそこまできちんと考えられるって素晴らしいよね。初めからそんなところまで考えられないですよ普通

小山:(照れ笑い)暮らしとしてのワイン造りで生きていきたかったからです

辰巳:暮らしとしてワイン造りを選んだわけだから、それが実現されなければやってる意味がない、と?

小山:そうです。だからワンオフでいいブドウを造ってもらっていいワインができて「ほらオレのワインいけてるだろ?」なんてまったく意味がないんです。
ブドウ造りもちゃんと産業として成り立って、そのブドウからできたワインがちゃんと販売されてワイナリーも成り立ってっていう。
そこの環境を文化として暮らしが成り立って、需要と供給が常に一致してればずーっと後世にも伝えられる産業になる。
それがヨーロッパの人たちの豊かな暮らしであると。僕はそこを目指さなきゃいけない

辰巳:違う(会社と意見が合わない)とわかった瞬間に、辞めちゃって次行くとこなかったんでしょ?
その辺の無鉄砲さといいますか、思いっきりの良さといいますか、すごいですよね。これはどっから?

小山:すごくボク慎重なんですよ

辰巳:爆 慎重じゃないでしょーそれは!

小山:僕は石橋叩かないです。石橋作って渡るんです

辰巳:でも辞めちゃったら何もできないじゃないですか!?

小山:辞めて、東御というところを見つけて、、、

辰巳:それは辞めてから見つけたんでしょ?

小山:だってもうそこにいたってしょうがないじゃないですか!?

辰巳:だから石橋叩いてないじゃないですか!?
(押し問答の末)
まぁいっか、とりあえずワイン飲みましょう!

(ワイン登場)

Rue de Vin Clair 2016

辰巳:これはソーヴィニョン?

小山:いや、これはピノ・ノワールなんですよ

辰巳:(注がれるグラスを見て)あ、赤だ!

小山:実はこれロゼなんです

(コルクを抜くいい音)

辰巳:イィ音しますね、このプシュッがね

(今度はワインを注ぐいい音)

辰巳:ほんっといい色!このピノ・ノワールをロゼにするっていうのは日本では(赤にするつもりだったけど)色が出ない時なんかによくやりますけど

小山:やらないです。実はこれは前回の放送の時のシャルドネベースのスパークリングがあって、
もう一つピノ・ノワールベースのスパークリングがあるんですけど、そのスパークリングの原酒をスティルワインとして出したのがこれです。
だから濃い色を出すためにセニエをした残りではないんです

辰巳:白仕込み?まったくマセラシオンとかしないで?

小山:はい。これは少しだけ色付けに赤ワインを入れています。
まぁ、シャンパーニュのロゼの造り方(と同じ)

辰巳:これはいつから造ってるんですか?

小山:ピノ・ノワールを植えたのは2009年からなんですけど、この年に植えたピノ・ノワールはすべてスパークリング用になってます。
それをいくつも熟成させて、ブレンドして、スパークリング造るんですけど。違うヴィンテージを造るときにどうしても余るロットが出てきます。
その余ったのをこうやってスティルワインにするんです。

辰巳:ちなみにこれおいくらぐらい?

小山:これは5.500円です

辰巳:ちょっと強気ですよね

小山;これ実はね、樽に1年11ヶ月入ってるんですよ

辰巳:そんなに入れてるんですか!?古樽ですよね?

小山:古樽だったり新樽だったりいろいろです。で、ボクはメカニズム的なことはわからないけども、
シャルドネだとせいぜい10ヶ月も入れとくともう樽香がすごくつくんですけど、このピノ・ノワール(ロゼ)に関していうと、最低1年入れないと樽からくるいい香りは出てこない。
(このワインみたいに)2年近く入れておいても、飲んで分かる通り樽負けしてないんですよ。
このクローンで赤ワインにすると、いい赤はできないです。樽に入れるとすぐ樽香がついちゃう。
ただ、スパークリング用にすると2年近く入れても樽香が大げさにつかない・・・


ロゼの色を愛でながら会話が弾みます

辰巳:まだまだわからないこと多いですよね笑。
ほんとにワイン造りって、ブドウ造りって、自然と一体になってどうやって力を引き出して行くかとか、どこで折り合いをつけるかとか・・・
小山さんのワイン造りの哲学というかなんというか、、、ほんとに小山さん自身が哲学者という雰囲気の造り手だと思ってるんですけど
昔から変わらないんですか?それともやってるうちに変化していってる?

小山:まったく変わってないです。「ブドウとともにワインとともに暮らす」ということ。ワインにはヴィンテージがある。
ヴィンテージというのはその土地の、その年の、天候気候を記録したもの。さらにそこに栽培者であり醸造者である僕らがどう争いたか。
すなわち「その年の天候気候と僕らの営みを記録したものがワインである」。
だからこそ、この土地で生まれたブドウでこの土地でワインを造る。そういう中に僕のワインがある。

辰巳:どんどん畑を増やしていってますよね。今どれぐらい?

小山:古いりんご団地、しかもそれが雑木林になってた土地、全部で40区画くらいあるちっちゃな集合体を14年かけて今年で開墾し尽くしたんです。
今僕らくらいの(規模の)メーカーが、畑の機械化をもっとも進めているんですよ。畑にコストダウンかけなきゃいけないから。そのためには機械化が必須だと。
だけれどもちっちゃい畑の集合体ってのは、面積に対してブドウが植わってる場所の割合が少ない。言ってみればうちの畑4割ぐらいが生産性のない土地なんですよ。
それではどんなに機械化しても効率が上がらない。でも僕にも実は想いがあって、ここのりんご団地を全部開墾して再生してみせれば土地の人が
「あ、ワイン産業っていい産業なんだなー」って思ってくれる。思ってくれた後に何が起きてるか?
実は今隣の御堂地区ってところの30haを大造成してくれてるんですよ。

辰巳:県がやってるんですか?

小山:県と国と市がやってます

辰巳:東御はワイン特区戻ってね、ワインファンからは本当注目の的、そのど真ん中にいらっしゃるのが小山さんなんですけど、
そういうことを誘発してるっていうか、行動で示して、ちゃんと実績上げて認められて、後に続く人に無言で手本示してる。そんな感じですよね。

小山:(照れ笑い)手本っていうよりも、ワインを造って暮らせる環境を作らなければ、僕自身の「Rue・de・Vin」って会社自体も未来はない、と。
例えば清流に住む魚が濁った水の中には住めないのと同じように、(小さな)Rue・de・Vinですら生きていけるような環境文化が整わなければ僕の代で終わってしまう。
そうならないようにはどうしたらいいのか?だからこそおっきな高台の御堂地区をおっきく開墾して、機械化を進める。基盤整理をし直すってことです。

辰巳:小山さんの畑はどのくらいの広さ?

小山:30ha、来年御堂地区に6ha植える予定です。6haだけど1枚畑なんですよ。
そうすると有効面積が8割以上、機械化もしやすくなる。ワインの価格もグッと抑えることができる。抑えることで地域の人が’飲みやすくなる・・・
地域の文化になってって欲しいな。

辰巳:(話変わります)前回飲んだスパークリングワインはおいくらで出してるんですか?

小山:あれは6.800円

辰巳:なるほど。それなりに値が張りますけど、ずっと強気な値段で?

小山:御堂の方でワインの価格は抑えられてきて、会社の収支のバランスがうまくできるようになってくれば、今の十二平から造るワインも少し価格が抑えられる。
十二平の方はプレミアムワイン、御堂の方は日常のワインっていう風に住み分けしていこうって。

辰巳:かなり長期的な展望をきちんと持ってワイン造りをされてるんですね。
僕も「日本のワインを愛する会」を立ち上げてこれからどうしていこうか模索しているところなんですけど、
これからの展望をどうお考えになってるのか、あるいはどういうことをすればいいと思いますか?

小山:今日本のブドウだけで造ったワインを日本ワインと呼ぼうと、そういう動きも一生懸命になってるし、だからといって輸入ワインを使ったものがなくなるわけもない、
あるいはヴィニフェラではない食用のブドウでワインを造ることもなくなるわけでもない。ブームだと思ってるんですよ。
ブームって必ず去るけども、そこにちゃんとしたベースが少しづつ積み上がってきて、文化的にもいいものになっていく。
だからこそ今自分たちができるやり方で、生産者さんは争いてやってると思うんですね。
僕らなんかみたいに自分で植えたワイン用のブドウでしかワイン造らないとか、食用ブドウ使わないとか、そういうようなことばかりがいいとは思ってないんですよ。
自分ができることで、日本ワインを追求していく中で、本当の意味で産業として確立されて欲しいな。
品質だけだったら世界に誇ることできると思うんですよ、丹精込めてワンオフで造ればいいわけですから。
だけれども、人々の暮らしということも含めて文化として誇れるものにしていく。
そのためには各々が各々のやり方で切磋琢磨しながら、僕は僕のやり方で環境を作る。いつか僕のやり方がスタンダードになればそれはそれでいいし。

辰巳:日立の関連会社からワイン造りの世界に飛び込んで、ワインが身近にある暮らしがしたいという人生設計を立ててほぼ20年、どうですか?満足ですか?

小山:決してまだ余裕がある暮らしではないですけど、例えばヴィンテージ毎のワインをストックしておく。
先日も2009年のワイン飲んだんですけど、すごーく熟成してていいブーケが出てるんでてるんですよ(シャルドネだったそうです)。
そういうようなことが僕だけじゃなくて、地域の人も含めて出来つつあるのかなって思ってます。
オススメのワインの買い方としていつも言っているのが『僕のワインちょっと高いから、好きなワインひとつ決めて毎年出来立てを3本買ってください。
一本は出来立て飲んでください、出来たては出来立ての時にしか味わえないので。「今年はなかなかいい年だなー」っとなって、じゃ、あと2本は何年熟成させようかで取っといてください。
仮に5年経ったら開けよって。開けたら「いやぁ、ちょっと早すぎたー」「もう一本あるじゃないですか」って』。本当はケース買いしてもらいたいんですけど笑。

辰巳:ケースって6本ですよね、僕も今度ケース買いします笑。
(小山さんは)たくさんワインメーカーいる中でちょっと異彩を放ってるっていうか、ちょっと違うんですよね。
ゆっくりお話し伺いたいなと思ってたんで今日はとってもいい機会でした。これからも頑張ってください!
本当にありがとうございました!

小山:はい、ありがとうございました!

株式会社リュードヴァン
2010年、長野県東御市に創業。30haの畑はヨーロッパ系ブドウ用品種にこだわり、
シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールなどが栽培されている。ワイナリーにはワインショップ、カフェも併設。
http://ruedevin.jp

News Data

八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」

2019年7月18日放送分

ワイナリー

株式会社リュードヴァン
2010年、長野県東御市に創業。30haの畑はヨーロッパ系ブドウ用品種にこだわり
シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールなどが栽培されている。
ワイナリーにはワインショップ、カフェも併設。
http://ruedevin.jp

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