今回のゲストは鹿児島県日置市に1845年(黒船来航より前!)から続く焼酎蔵、西酒造8代目の西陽一郎氏。「吉兆宝山」「富乃宝山」などの銘焼酎を手がけてきた氏がなぜワインに参入?その場所をニュージーランドに選んだわけとは?全2回前編。
辰巳:新年あけましておめでとうございます!今日も素晴らしいゲストをお招きしております。ご紹介しましょう!鹿児島の西酒造株式会社代表取締役社長、西陽一郎さんです。
辰巳・西:明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
辰巳:西酒造といえば、富乃宝山を始めとする大人気の焼酎メーカーなんですがー。どうしてここにお招きしたかと言いますと。「ワイン事業」を始めた。しかも日本じゃなしにニュージーランド(以下NZ)に。
この番組は日本のワイナリーの方々をどんどんリレーしながらお招きしてるんですけど、NZでありながらも日本人が造ってるということで、今回はアーラー(URLARと書きます)というワイナリーのオーナーとしてお招きしました。
そういう意味で今回は少し毛色が変わった感じになるかと思いますが、よろしくお願いします。
どうですか?正月からお酒飲んでますか?
西:すでに今酔っ払っておるんですけど笑。(辰巳さんが交通渋滞でちょっと遅刻した隙に嗜んでいらっしゃいました)
辰巳:ではさっそく乾杯しましょうか笑。
辰巳・西:乾杯!
GLADSTONE URLAR ソーヴィニョン・ブラン 2017
辰巳:んーーー、あーーー!これはソーヴィニョン・ブラン!NZといえば今ソーヴィニョン・ブラン、20~30年前からですかね。元々ほとんど知られてなかった地域が一躍有名になりましたよね。
なぜNZに目をつけたのかなと、このあたりから。
西:NZには5~6年前から行ってました。焼酎造りながらもワイン造りにもチャレンジしたいなぁっていう気持ちが非常に強かったんですね。フランスやナパなどワインの産地はいっぱいありますけど、なんかね、
NZに行った時、特に12月1月は向こうは真夏なんですけど、朝起きると5℃なんですよ。
辰巳:え~~~!?
西:そうなんですよ。で昼間は30℃。この糖熟の時期にこの寒暖差!「これはいいところだなぁ」と思いまして。惚れました。
前任者のアンガス・トムソンという人物と出会って、彼から「(ワイナリーを)引き継いでくれないか」という話をいただきまして。
元々造ってる焼酎にもっとうまい焼酎の造り方はないものかと、ワイナリーやウィスキー蔵などいろんな蔵を回ってる一環だったんですけど、話が盛り上がっちゃって仲良くなって。
非常に迷ったんですが、自分の中に”ワインを造りたい”っていう想いはありましたんで(引き受けました)笑。
辰巳:そもそも最初にNZに行ったのはどうして?何しに?実は僕、行きたいと思ってるのにまだ一度も行けてなくてこれまで縁がない。ヨーロッパ優先でどうしても後回しになっちゃうんですけど、いったいどういうきっかけだったのかなぁと。
西:僕ゴルフが趣味で、、、
辰巳:ハンディは?
西:7とか8ですけども、、、
辰巳:!シングルプレーヤー?そんな暇なのー?(←失礼な)笑笑。
西:すべてにおいて一生懸命でございます笑笑。
(話NZに戻ります)ニューワールドの中でも新しい地域じゃないですか。ピノ(・ノワール)の適地になったのもこの25年ぐらい・・・。
辰巳:ピノが有名になったのはもっと短いんじゃないかなぁ。
西:そうなんです。樹を植えだしたのもそんなもんなんですよ。うちの樹ででだいたい15~16年で古いほうですから。で、ブレンドじゃなくて単一品種で美味いワインを造ってる地域っていいなぁと思って。それで惚れたってとこもありますね。
辰巳:まぁ最初ゴルフしに行って笑、でもそれまではNZのワインを集中して飲んだことはなかったわけですよね?
西:そ、それがですね、飲んでたんですよ。「NZ美味いなぁ、ピノ(・ノワール)美味いなぁ」って。そう、ピノ好きになっちゃったんですよ、ある時から。
辰巳:ワイン好きってねー、だいたいボルドー系(カベルネ・ソーヴィニョン、メルローなどのブレンド)かブルゴーニュ系(ピノ・ノワール単一)かに分かれるんですよ。
西:シラー、カベルネから始まって、メルローいって今ピノ。
辰巳:そのあと白にいくんですよねー笑。
西:いくんです、おっしゃる通り!笑。
辰巳:それでピノにフォーカス、NZのピノはいいそーって思ったんですね?例えば(NZの)どの辺の?
西:マーティンボローとか北島の下のあたり非常にいいですよね。うちは自然酵母で造ってるんですけど、そうじゃない酵母添加しているのとじゃ全然味が違う。それが非常にわかりやすい地域でもありましたね。
辰巳:NZのピノといえば北島の”アタランギ”や”プロヴィダンス”が有名ですよね。北島っていうとね、北半球だと北が寒くて南が暑いんですけど、南半球だから北のほうが暑い島なんですよね。
西:北島の上の方、オークランドの周辺ではカベルネ(・ソーヴィニョン)の美味いのも造ってますしね。温暖化の影響を唯一受けてないようなところもあって(そういう場所でも)ちょっとやってみたいとは思いますね。
辰巳:今回手に入れたアーラーというワイナリー、以前はグラッドストーン(GLADSTONE)という名前でしたけど、北島のどの辺にあるんですか?
西:下のマーティンボローから車で40分かかるウェリントンとのちょうど中間あたりです。
辰巳:東の方に行くとクラウディ・ベイとかそんなあたりですね。畑はどれぐらいの広さ?
西:今35haぐらいです。
辰巳:ほーぅ!日本からするとけっこう広いなと思うけど、世界的にみたらまぁ小ぶり、ですかね?西さんとしてはもっと大きくしたいなという気持ちも?
西:そうですねぇ、隣の畑を買ってくださいってな話もありますので・・・。
辰巳:いやぁ、美味しいですよ、このワイン。
西:ありがとうございます。
辰巳:だいたい白は冷やし気味で飲むんだけど、このワインは少し温度高めがいい。香りもフワァっと香ってきて、でもきちっと酸が残ってるから絞まってるという。NZのソーヴィニョン・ブラン、出会った時はよく飲んでたけどだんだん飽きてきた。
しばらく飲んでなかったんですけどここにきてちょっと変わってきたかなと。少しブランク置いて飲んでみるといいですよね。
これ日本でいくらで出してるんでしたっけ?
西:2.800円です。
辰巳:驚!上代(希望小売価格)が!?NZのワインってちょっと高めのイメージあるけど。例えば設立30年以上の老舗、日本ではソーヴィニョン・ブランの本家本元みたいなイメージがあるクラウディ・ベイ。
昔はそこがそんな値段だった気がしますけど今倍くらいになってますよね。そういう風になってくるとどうなのかね、ソーヴィニョン・ブランって?リースリングなんかはもっと高くなってもいいんだけど、ソーヴィニョン・ブランはもっとグビグビと飲みたいようなワインだと思うので。
西:僕ワイン始めて思うのは「この味でこの価格」ってのが明確なんですよね。焼酎とも違う、日本酒とも違う。「この味はこの価格だったら飲むなー」ってのがワインの面白さでもあるなぁって。
世界でワイン造ってて、みんなしのぎを削ってて、一所懸命やってて、造り手として「よし、この9.000円ぐらいの酒質のワインだけど、3.000円で売ったら面白いぞ」笑笑、っていうのが面白いですよね、味と価格のバランスが。
すっごいワインたちってあるじゃないですか、フランスの5大シャトーとか。そういうのとはまた別でね。
辰巳:まぁ別格は別格であるけど、やっぱりハレのワインとケのワインはある。晴れのワインは飲むときは思い切って青天井になったとしても、ケのワインはそんな高いのはよくないんと思うんですよ。日本では輸入ワインは税金その他で高くなるし、日本ワインも人件費とか考えるとそんなに安くない。消費者は”ワインは高いもんだ”というイメージを拭えない。
西:それはあんまりよろしくないですね。安くて美味いワインいっぱいありますから。
辰巳:例えば居酒屋なんかに行って、ジョッキで生ビール500円とか高くても700~800円じゃないですか。グラスワインは500円なら安いけど700円800円、スパークリングなら時には1.000円、シャンパーニュだったら2.000円するときもあるし。そんなの普通に飲めないでしょ?アルコール度数は高いけど量は少ないしね。だったらビールだし、酎ハイ、ハイボールにいっちゃいますよ。そのあたりと勝負できるワインを造らないと、本当の意味で日本にワイン文化は広がらないんじゃないか、とどっかで思ってるんですよね。
この(上代)2.800円は若干高いかもしれないけど、流通考えたらどうなるのかな?
西:(ワインバーなどで)出したらグラス800円~1000円でしょうね。
辰巳:ちょっと高級ではあるけども、日本ワイン応援団長として忸怩(ジクジ)たるものがある、、、日本ワインでこの酒質でこの値段は絶対できないんですよ。そういう意味でも日本でこういうソーヴィニョン・ブランやシャルドネを造る意味・課題はすごくある気がします。
この辺りの将来を占う意味でも、NZのこの発展、このやり方。ゼロのところから産地を作ってきたっていうところも見習うべきところがあるんじゃないかなぁとも思うし、日本には日本なりの展開の仕方があるんじゃないかなぁとも思うし。
この辺り、海外で日本人がワイン造り始めて、新しい展開、考え方ができてくるんじゃないかととても楽しみにしてるんですよ。造り手も小山浩平さんという日本人ですよね?彼は以前は?
西:彼はね、以前はグリーンソングスっていうワイナリーでやってたんですよ。前オーナーと私と3人で技術云々いろいろ話す仲間だったんです。私がNZに行けばアテンドしてくれたりとか。で、今回アーラーを立ち上げるにあたり「一緒にやりましょう」となって
彼が「じゃぁワインメーカーやります」と志願してきた。3月4月、収穫時期絞る時期は私も行きますが、それ以外の時期は彼が見守ってくれてますね。
辰巳:それまた心強い。
西:醸造だけじゃなく栽培にも明るいんでなかなかいいですよ。
辰巳:彼(小山氏)とはどうやって知り合ったんですか?
西:かつて彼のところ(グリーンソングス)に行ったことがあるんです、日本人がやってると聞いて。マーティンボローの近くなんですけどスッゲー山合い。
辰巳:そのワイナリーとか畑は今は?
西:彼が売却しました。ま、3haぐらいでしたから。
辰巳:アーラーの方が将来性、ポテンシャルもいいと思ったんですかね?
西:うん「一緒に夢を重ねて美味いワイン造ってこうねー」みたいなことになって・・・。
辰巳:やっぱり”出会い”って大事ですよね?もちろん土地との出会いもあるでしょうし。
アーラーは元々ワイナリー(建物)はあったんでしょう?
西:はい。ですけど、今年の収穫が終わりましたら製造所をまたやり変えます。赤のラインと白のワインを明確に分けるのが一つ、あとは
酒質のレンジをさらに上げていきたいので、樽の貯蔵庫を充実させたいんですね。
辰巳:これからNZに行く時間がどんどん長くなる?
西:なりますね、ちょっとね。
辰巳:収穫はいつ頃?
西:3月4月です。
辰巳:3月は後半ぐらいからでしょ?前半に東京で*お芝居やるので見にきてよ(ちゃっかり宣伝)。
西:行きますよ行きますよ、行かしていただきますっ!笑。
辰巳:でも楽しみが増えたなー、日本と違って南半球ですからね。ワインの造り手って普通は年に一回しか造れないんだけど、(日本で)秋にワイン造って、春にまたワイン造れる。最近のスタイルにもなりつつありますからね。
まだ始めたばっかりですが、これからが楽しみですね。日本人の造り手もNZ多いですしね。そういう人たちとコミュニケーションあったりするんですか?
西:ありますあります。最近もう一人の小山さん(ワイパラ「Koyama Wines」小山竜宇氏)とかね、最近仲良くやってます。飲食店の方なんかに紹介いただくんですよ。
辰巳:他にも佐藤さん(セントラルオタゴ「Sato Wines Ltd.」佐藤嘉晃氏)とか楠田さん(マーティンボロ「Kusuda Wines」楠田浩之氏)とかね。
西:小山君は蔵にいろいろ持ち寄ってみんなでやってるみたいですよ。
辰巳:今年はNZに行きたいと思ってますんで、その時はよろしくお願いします!
今回は鹿児島の焼酎メーカー、現在はNZにアーラーというワイナリーもお持ちの西酒造、西陽一郎さんにお越しいただきました。
皆さんも是非、NZで造ってますけど、日本のワインだと思って飲んでみてください。
では次回もよろしくお願いします!
辰巳・西:ありがとうございました!
*辰巳琢郎が出演する舞台「愛する母、マリの肖像」
News Data
- 八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」
2020年1月2日放送分
- ワイナリー
西酒造株式会社
鹿児島県日置市吹上町に1845(弘化2)年から続く焼酎蔵。焼酎を「日本古来の蒸留酒であり、世界に誇るべき文化である」と位置づけ、富乃宝山などの銘焼酎を造り続けながら、ニュージーランドの北島のワイナリー「GLADSTONE」を買収、
「GLADSTONE URLAR」として本格的にワイン産業に参入した。
西酒造HP:https://www.nishi-shuzo.co.jp
「GLADSTONE URLAR」HP:https://www.gladstone-urlar.com