八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」2019年8月15日放送分

今回のゲストは山梨県勝沼の老舗ワイナリー、来年130周年を迎える丸藤葡萄酒工業4代目の大村春夫代表です。
要領のいい兄弟に挟まれた次男坊の少年時代の働きっぷり、ブランド名「ルバイヤート」は11世紀の詩集に由来する?
など今回も盛り沢山でお届けします。(全2回、後編)

辰巳:前回に引き続き、今回のゲストは勝沼の重鎮、ルバイヤートでおなじみの丸藤葡萄酒工業、大村春夫社長にお越しいただいております!

辰巳・大村:よろしくお願いします!

辰巳:大村さんもほんっとに喋りだしたら止まらないですよね笑

大村:いやいや、そんなことは笑

辰巳:言葉持ってて語れないとやっぱりね、サッポロビールのコピー(1970年の’男は黙ってサッポロビール’でしょうか?)はありますけど、
でもやっぱり(ワイン)造ってる人から話を聞きたい。だってその方が飲んでて楽しいですから。いろんな情報がワインをより美味しくするみたいな。
今日はどんな話を伺おうかな、と思っております。
大村さんは今68歳と前回伺いましたが、っということは1951年生まれ?卯年?

大村:もう四十数年ワイン造って、重鎮と言われても不思議じゃない歳ですよ

辰巳:ワイン造り始めたのは?

大村:親父が病弱だったんで、中学生の頃から農薬を撒くような機械運転(父上が農薬を手散布ではない機械をいち早く導入)させられたりしてたわけですよ。
その当時は住み込みで働いている人が2人ぐらいいて。その1人が酒が大好きで、樽からホースで飲んでたっちゅ噂があってですねー、爆。
ホースでストローみたいにして飲んでたらしく、計るとどうも量が減ってる笑笑。まぁいい時代だったですよね、こんなことが認められるんだから。
そういう人たちの影響もあってですね笑。当時は夕方遅くまで仕事してると1杯(お酒)出したりするんですよ、親父としては。
今そんなことしたら働き方改革で罰せられますし、飲酒運転で捕まるし。。。

辰巳・大村:困った世の中になりました(憂)

辰巳:酒の造り手としては特にね

大村:そうですそうです。勝沼でワインを造ってる人たちは、町内では飲酒運転してもいいってことにしてもらいたいと、いつも思ってますけどね

辰巳:飲酒運転特区を作ってもらいたいと?

大村:だって仕事なんですもんワインをテイスティングすることが

辰巳:制限速度10kmと15kmとか、ゴルフ場のカートぐらいのぶつかっても事故にならないような。それ以上出したら重大罰金とかね

大村:でもこっちがゆっくり走ってても向こうからぶつけられたらアウトですからね笑笑

辰巳:そりゃそうです笑。(飲酒運転)特区の中では全員そのルールを守るとか

大村:勉強会が勝沼であっても誰かに送ってもらわなきゃいけない誰かに迎えに来てもらわなきゃいけない。なんかちょっと違うかなって気もしますけど

辰巳:でもね、もうすぐですよ、自動運転が笑。車が勝手に走ってくれる時代になりますから笑

大村:ボルドーは2杯までOKって言ってましたよ。昔はお巡りさんがカフェでもってワイン飲んでバイクで見巡り行ってましたからね

辰巳:僕もよくワイナリーツアー行きますけど、イタリアではバスの運転手さんがね、ランチタイムにグラスワイン飲んでんですよ。
それは権利なんですよ、ランチタイムの権利

(注:今はヨーロッパも飲酒運転にはだいぶ厳しくなりました)

大村:日本は四角四面に考えすぎてるので・・・

辰巳:でも(日本人は特に、アルコールに)弱い人もいますからね。
でも強い人は強い。
こんなことを公共の電波で喋っていいのかどうかもわかりませんけど笑、。お酒飲みながらの番組なんで、その辺は許していただきましょうかね。

(ワイン登場)

ルバイヤート 甲州醸し 2018

辰巳:今日はどんなワインをお持ちくださったんですか?

大村:甲州種の、シュール・リーっちゅのがうちのメインの商品なんですけど、今日はちょっと変り種で、
白ブドウを皮ごと赤ワインのように発酵させるっていうワインを持って来ました

辰巳:いわゆるオレンジワインですね。では抜栓していただきましょう

(コルクを抜く音・注ぐ音)

辰巳:オレンジワインといいますかサーモンピンクといいますか、という色の、甲州を皮ごと赤ワインのように仕込んで、

大村:茎以外を全部タンクに放り込んで、野生酵母でやってますんで、じーっと4日間発酵しなくて5日間にやっとプシュッといってきた。良かった♡

辰巳:いただきます。う~ん

大村:渋いですよ

辰巳:渋いというかなんて言いますかねー、悪い言い方するとちょっとエグ味のような、ちょっと皮付きのリンゴを食べた時の・・・
そのリンゴの皮が美味しいんですけどね。そういう皮の味わいというのがよく出てますよね。
甲州というブドウ品種は白ブドウでもなければ黒ブドウでもない、ピンク色といいますか、

大村:グリ系ブドウ

辰巳:グレー(グリはフランス語)系、ちょっと紫がかったグレーのブドウなんですけど、ま、デラウェアもそうですよね

大村:甲州の方がやっぱ’雅’な色だと思います♡日本の紫色っていうか甲州色っていうか。やっぱいい色だと思いますよ♡

辰巳:秋になりますと、葡萄棚からザーーーーーっとね、房が垂れ下がってる光景ってね、春の藤の花のような印象でね。あの景色は見事ですね

大村:葡萄棚の下で宴会をはったり(やったり)するシーンが昔はよくありましたよ

辰巳:ただね、葡萄棚が低いんですよ笑。腰を屈めて歩かなくちゃいけなくって

大村:あれはね、園主の(身長の)高さに合わせてやってる。しかもブドウが生ると棚が下がるんですよ。
普段は作業してる時の方が(収穫期より)圧倒的に多いじゃないですか?その作業してる時の高さが園主の高さに合わしてるので。
辰巳さんは背が高いからいつも首を曲げながら入らなきゃいけないと思いますけど笑

辰巳:棚の針金の隙間から頭出してみたりして休憩してますけどね笑。もう少し高くしてベンチとか持ち歩いた方がいいんじゃ?

大村:だからご主人が背が高くて奥さんが低い時は、奥さんはいつもアルミの踏み台をはめてやってますよ(登って作業してますよ)
ご主人の方が仕事の量が多いのでそれに合わせたサイズなんですね

(話変わります)

辰巳:子供の頃からブドウの手入れとか収穫の手伝いとか

大村:やってましたよ。学校から帰るとボルドー液を作る。硫酸銅、と石灰を混ぜたもんですよね。
畑の端っこに入れ物があって、分離しちゃうから竹箒(タケボウキ)の先端がないようなやつで’混ぜてろ’と(父親の指令)。
「よその子供たちは遊んでるのになんでオレはこんなことしなきゃいけないのか」といつも思ってましたよ。
で、それが終わると今度は風呂を沸かさなきゃいけないんで。それは子供の仕事なんですよ

辰巳:薪で?

大村:ブドウの枝

辰巳:えぇぇぇぇぇ!?剪定した枝とか?

大村:それが昔の風呂釜ってなかなか燃えないんですよ。やっと点いて燃えたのに、親父が入ったら「ぬるいぞ」って。追い炊きですよ笑

辰巳:ブドウの枝で炊いた風呂は入ってみたいですよね

大村:そうですかー?笑笑
うちの母がよく言ってたのは”働かざる者食うべからず”小学校の頃から。
だから起きたら雨戸を開けて、土間を掃いて、上がり框(かまち)を拭いて、そして朝ごはんですよ。
で、それをうちの兄貴とか弟はあんまりやってないんで俺だけやらされてた感が強い。

辰巳:お兄さんも弟さんも要領が良かった?

大村:要領がいいんですよ彼らは笑

辰巳:結局最後にちゃんと仕事してたのは次男坊?お父さんも見てたんでしょ?

大村:なんですかねー、兄貴もやらなかったからしょーがねーなーでやりましたけど、
でも結局兄貴が(船乗りやめて)帰って来たのは親父も喜んでましたよ「長男が帰って来た」って。
例の毛利元就の教え(三本の矢)に沿ったような感じになりましたから良かったんじゃないですかねー

辰巳:三本の矢!仲いいんですか、今でも?

大村:そうですね、今日も来てくれてますし

辰巳:今日は東京駅のすぐそばにある、田崎真也さんがプロデュース、
山梨県がバックアップしているというY-wine(ワイワイン)さんで収録をさせていただいております。1階には山梨の物産館があってワインも多数。
田崎さん秘蔵っ子の船戸さんっていう美人ソムリエがいらっしゃいます、皆さんよろしければ是非!
https://www.facebook.com/f.yamanashi.kan/

ところで。ルバイヤートというブランド名はいつから?

大村:うちは今年129年目のワイナリーなんですけど、ブランド名がついたのは60年ぐらい前なんですよ。
だから70年間ぐらいはブランド名なかったんです。当時のブランドは「薬用葡萄酒」っていう名前、メディカルワインっていうラベルがうちにも残ってます。
勝沼に大善寺っていうお寺があって、そこには薬師如来がいるんですよ。
その如来は左手にブドウ持ってて、薬師っちゅくらいですからブドウとかワインって薬だったんですよね、元々は。
60年前に日夏耿之介さんっていう作家の方がある人に連れられてうちに来て、親父が「ワインを本格的に売りたいので名前をつけてください」ってお願いして。
それが昭和29年の12月だったです。それから1年ちょっと経って31年の1月に手紙をもらって名前(の候補)を3つもらった。
1)ルバイヤート2)アンシャンテ(仏語で’初めまして’の挨拶、英語では’魅す’や’酔わす’)3)シャリオドール(仏語で’金の馬車’)。
で、ルバイヤートってのは今のイラン、昔のペルシャの詩集の名前なんですね。オマル・ハイヤームという酒と美女を讃えた詩人の。
日夏さんは「インテリはこの名前みんな知ってるからこの名前つけろ」っていうんですけど、どうもなんかインテリが少ないみたいで、

辰巳:僕は知ってましたよ、ちゃんと

大村:それはインテリですよ笑

辰巳:中学の頃わりと詩が好きでね、読んでたんですけど

大村:それはすごいですよー驚

辰巳:親父の本棚にあったんです

大村:岩波文庫?

辰巳:そう、この詩人いいなぁと

大村:なかなかいい詩が多くて「恋する者と酒飲みは地獄へ行くというのは根も葉もない戯言にしか過ぎぬ」と笑。
「恋する者や酒飲みが地獄に落ちたら、天国は人影もなくなくり寂れよう」ってのがあるんですよ笑笑
ワインを飲む人たちはね「(我々は)地獄にしか行かれない」って話になる。
恋する者でまずダメだし酒飲みでもダメだし、どっちにしても天国になんて行かれないですよって。
(地獄が賑わいそうですねー)
でもオマル・ハイヤームって人は時のスーパースター、科学者で天文学者で数学者で医者で文学者で、みたいな人がこんな詩を読むと・・・

辰巳:ある種の天才ですね、イスラム世界のレオナルド・ダ・ヴィンチみたいな。いつの時代か忘れましたけど、

大村:11世紀ですよ

辰巳:ダヴィンチよりも前ですね!?

大村:で、ペルシャのそういう詩集がフィッツジェラルドによって英訳されてから世界に広まるんです

辰巳:あの「華麗なるギャツビー」のフィッツジェラルドですよね?

大村:そうですそうです、その彼が英訳してから世界に広まって。
4行で詩を書く形式を’ルバーイイ’それが複数集まると(詩集になると)”ルバイヤート”になるんですよ。

辰巳:ほぉぉ。僕高校の頃真似してね、詩ぃ書いてましたよ。だから”ルバイヤート”って最初に聞いたときはなんてカッコイイ名前だと!

大村:そりゃ嬉しいですねー

辰巳:わからないんだけども、子供心ながらにある種の’大人の世界’というか、’ちょっと現実から離れた理想の空間’というか酒っていいなぁと思いましたね

大村:岩波文庫のこれは新潟の小川亮作さんって人が原典から翻訳してるんですけど、
けっこう英訳から訳してるのも多いんです。ルバイヤートの翻訳にはいろんな人が関わってる。

(今回’詩集ルバイヤート’の中から大村さん推薦の詩をいくつかピックアップもらってました)

辰巳:その中でもお気に入りなのが?

大村:酒を売る人たちがなんか腑に落ちないってなことも書いてある。こんなに美味しいものを売って何にかえようとしてるんだ!?ちゅうね。
「大空に月と日が現れて」ってやつですね。

辰巳・大村:(二人揃って朗読)「大空に月と日が姿を現してこのかた、紅(くれない)の美酒(うまざけ)に勝るものはなかった。
腑に落ちないのは酒を売る人々のこと。この良きものを売って何に変えようとか」

大村:お金に変えて何がしたいんだ!?って

辰巳:こんな美味しいもの造ってなんで売っちゃうんだ!?って笑
美味いもん造ったら自分で飲めよ!と笑
こういう精神は大村さんの中にあるんですか?

大村:多分にあると思いますよ。だからあんまり宣伝もしないですし、自由に生きたいなぁていうのはありますよね。

辰巳:今日本全国でワイナリーが300軒超えましたけど。これからどうなっていくか?
増え過ぎじゃないか?っという意見もあれば、いや、まだまだもっともっと増えて欲しいってな話もありますけど。その辺りはどう思われますか?

大村:個性が広がるのはいいことだとは思いますけど。ただ、基本を守った上での応用がされるのはいいけれど、’いきなり応用’笑、ってのがけっこう目につくんで。
やっぱそこはね、ワインっていう基本を守ってもらいたいなっちゅのはありますね

辰巳:’ワインの基本’ってなんでしょ?

大村:なんでしょ?笑。急には答えにくいですけど

辰巳:いわゆる近代的なきちんとした醸造法、あるいは精神的なものなのか?

大村:両方ですね、衛生的なことも含めて。やっぱり瓶の底にオリが5cmもあるようなワインを「これが’自然’です」とか言われてもちょっとなーっていう・・・

辰巳:元々遡るとギリシャのメソポタミアとか、コーカサスとかあっちの方の、昔の甕仕込みのが今できてます(復活してます)けどね

大村:それでも当時は上澄みを取ってたと思うんですけど。今は上澄みごと入れちゃってってなところも目につくので。
「だから濾過器買えよっ!!!」(←前回にも登場のセリフです)。
でもね、だんだん淘汰されると思いますよ。まだしばらく増えるでしょうけど、今マスコミが変に取り上げるところもある影響もあるので。
だから我々みたいに古いところはもうちっと頑張らないかんなと逆に思います。
新しく始めたところにはかなわないと思いつつ、老舗なりの味を出したいなっちゅ感じはしますよね

辰巳:ただちょっと高いんですよ、ワイン(の値段)が。僕は苦言を呈したい。もっと価格を抑える努力、安いワインも造って・・・もっと裾野を広げる努力をしないと。
まだまだ「ワインって金持ちが飲むもんでしょ?」という考えを持った人たちがたくさんですから。実際日本酒とかビールに比べると高い感じもしますしね。
それも含めて「どうするか?」っていうことですよね。飲み手としても、日本ワイン応援団としても考えなくちゃいけない。

大村:どんどん苦言を呈してもらって、是正してったほうがいいと思いますよ

辰巳:でも一方で、ワイン文化ということを考えると幅の広さっていうのはきちんと担保しなくちゃいけないのかな、とも思うのもありますし。
まだまだ日本ワインは黎明期ちょっと脱したぐらいの、

大村:まだまだ伸び代はあると思いますよ

辰巳:今までハイハイだったのがヨチヨチ歩きになったぐらいの・・・

大村:頷。もうちょっと面白くなるとは思いますよ

辰巳:ですよね。
もっともっとお話を伺いたかったんですが、時間がきてしまいました。
今回のお客様は日本のワインの中心地、勝沼の重鎮、丸藤葡萄酒工業の4代目、大村春夫社長にお越しいただきました。

辰巳・大村:ありがとうございました!

News Data

八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」

2019年8月15日放送分

ワイナリー

丸藤葡萄酒工業株式会社(http://www.rubaiyat.jp)
明治23年、山梨県勝沼で創業した老舗ワイナリー。ブランド名は「ルバイヤート」。
甲州種の造り手として名を馳せるが、近年ではシャルドネやプティ・ヴェルドなどの欧州系品種でも高い評価を得ている。
平成元年から始まった蔵コン(ワイナリーでのコンサート)も名物。

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