八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」2019年5月2日放送分

ゲスト:川邉久之さん(高畠ワイナリー取締役 製造部長)
今日本ワイン業界で泣く子も黙る(?)醸造家の一人と言ってもいい川邉さんとのトークの2回シリーズ。1回目はトレードマークのロン毛のルーツから学生時代のアルバイトにワインの哲学を見た?まで、早くも川邉節が炸裂します。

辰巳:本日のゲストは、株式会社高畠ワイナリー取締役製造部長の川邉久之さんです。

川邉:どうも、高畠ワイナリーの川邉です。

辰巳・川邉:よろしくお願いします!

辰巳:今ニッポンの醸造家としてものすごい引っ張りだこで方々行かれてますよね?

川邉:そうですね、ちょうど今日も神戸から戻って来ましてきのうおとといは大阪でした。

辰巳:いわゆるフライングワインメーカー(主にフリーランスであちこちのワイナリーでコンサルタントをする人)というわけじゃないと思うんですけど、いろんな方が教えを請いに川邉さんを呼んでますよね?

川邉:2009年に高畠ワイナリーに加わったんですけど、それ以前は7年ほど独立してコンサルタントをしたり、専門学校で講師をしたり。教えるということに関するファイルをたくさん持っていたということから、最近は高畠ワイナリーの営業活動以外に、例えば「塩尻ワイン大学」であったり国税局のセミナーに呼ばれたり、取引先の問屋さん主催の酒販店さん対象の品質管理や欠陥臭・・・まぁワインの化学的目利きをかいつまんで教えて欲しいという(要望に応えています)。

辰巳:しゃべるのが得意?

川邉:そうかもしれませんね(辰巳さん、大きな頷き)

辰巳:高畠ワイナリーは山形県にあって今まで高畠ワインだったのがGI(昨年10月30日に施行された国税庁によるいわゆるワイン法)の導入によって社名を変えたばっかりですよね。

川邉:そうですね。1990年にワイナリーができた時、登記上は「高畠ワイン株式会社」だったんです。でも周囲も「高畠ワイナリーさん」で通ってたし我々の中でも認識は「高畠ワイナリー」だったんですけど、名刺もワインのラベルも「高畠ワイン株式会社」。(やはり不自然だなということで)来年30周年を迎えるにあたって、GIもさることながらCIという形で思い切って「高畠ワイナリー」に変更しました。掲示物は残して、めんどくさいですけど文書面関係を変えた方が安上がりですし、聞こえもいいんじゃないかということで。

辰巳:何事もシンプルはいいですよね。世の中なんかややこしく難しくしようとする動きがあるんですけどね。(高畠ワイナリーの方が)我々にとってもわかりやすいですよ。あースッキリしました。
(話変わって)
川邉さん、、、ロン毛なんですよ(笑)。よく「ロン毛の醸造家」とか言われてますけどいつから?

川邉:学生時代からですね、大学生の時。醸造家や造り酒屋の杜氏さんが通う東京農業大学の醸造学科を出たんですけど、その時にサークルとして軽音楽同好会というのをやっていて、その当時はさらに金髪までしてたんですけど(大笑)。入社した時には切りましたけどね。

辰巳:入社ってのは高畠ワイナリーではなく?

川邉:新卒で、高畠ワイナリーを設立した九州鹿児島の「南九州コカ・コーラボトリング」(今は吸収されてしまってコカ・コーラは一つになってしまった)という本坊酒造グループの中に入りました。’アメリカにワイナリーと清酒の事業を始めるから技術者を探している’と九州出身の私の先生から紹介されて。
(話ちょっと飛びます)
当時は音楽もやってたんですけど、学外の活動で色々アルバイトしてて、メインの一つが成城学園にあるハイエンドな古美術の骨董品の店で修理や配達、商品の説明をやってたんですよ。

辰巳:アルバイトで!?それってバブルの頃でしたっけ?

川邉:大学には事情あって5年いたんですけど
辰巳:私も事情あって7年いましたからね(二人で苦笑)

川邉:1983年から88年までですからほんとにバブルの頃で。
日本の人たちはメルセデスベンツとかを買ってたんですけど、日本に来られていた外国人の駐在員の方たちが母国に帰る時は日本の大きな箪笥や屏風なんかを買われるんです。で、社長と一緒に麻布とか六本木にあるお宅に配達しに行った時に(駐在員の方に)「アナタは何してるの?」って聞かれて「大学で勉強している」「何を?、何になりたいの?」って矢継ぎ早に聞いてくるんですね。(川邉青年苦戦)。すると社長が「大学生なら何になりたいか、なぜこのフィールドを選んだかというくらいは英語で喋れなきゃダメだよ(外国では当たり前のことだよ)」と。それからNHKのテキストを買って勉強始めたんです。

辰巳:あれ、東京農大って英語要らないんでしたっけ?

川邉:いや、英語要るんですけど。日本って文法とか’受験英語’って必要ですけど、やはり’聴いて会話で返す’ってなかなか弱いですよね。
だから研究室の中で、並み以上に英語を訳せたりするのを教授が見ていてくれていて「海外の勤務どうだ?」ってなったんです。
会社の説明での駐在先にNAPA、ネヌ・エー・ピー・エーって書いてあったんですよ。

辰巳:ぇ、じゃぁ鹿児島の方にはまったく行かずに最初から?

川邉:いえ、当初は鹿児島で焼酎の研修を受けて、そのあとは熊本にある酒蔵で研修受けて、3年くらいやって(ひと通り)覚えた時に送り込む目論見だったみたいです。当時の本坊グループのトップは’カリフォルニアで芋焼酎’を実現させたかったみたいなんですね。

辰巳:本坊グループってね、’さつま白波’とか’桜島’とか焼酎ではいろんなブランド持ってますもんね。

川邉:そう、’アメリカに芋焼酎の灯をともしたい’と。そのために私は研修を受けてた。ワインに関しては「そのうちワインもやるから勉強しておきなさいよ」くらいで。
半年研修を受けたところで「実は中古のワイナリーをナパヴァレーに買ってしまった!今すぐ荷造りして東京に戻って渡航の準備をしなさい」という電話がかかってきて「あらら」と思って(笑)
で、地図見たら・・・

辰巳:じゃぁそれまでナパがどこにあるかも知らなかったんだ?

川邉:ぜんぜん。菜っ葉?(大笑)これまでワインだって1本も飲んだことなかったんですから。

辰巳:あれ、何年生まれでしたっけ?

川邉:1963年生まれですから(最初の)東京オリンピックの前の年ですね。

辰巳:僕より5歳下ですから今55歳、今年56歳ですよね。
オレは飲んでたよ、学生時代一升瓶ワインを、日本ワインを(笑)。

川邉:(自分は)一升瓶ワインが終わって次の世代だったんですよね。ちょうど一升瓶ワインとボージョレ・ヌーヴォーのはざまの時に大学生だった。
バンドでロックンロールとかやってるとワインではなくて、やっぱりバーボンウィスキーとかジンとかテキーラとか・・・

辰巳:ロックンロール?プログレとかじゃなしに?

川邉:そうなんです。ローリングストーンズとかそういう感じの。そうするとやっぱりワインじゃなくて蒸留酒だろうって。

辰巳:そりゃぁ確かにバーボンソーダとかになりますよね。

川邉:ミック・ジャガーはお金持ちになってからワイン飲んでるみたいですけど(笑)。
(話戻ります)
それで、アメリカに決まって地図見てキラ⭐︎ってなったのが’サンフランシスコから40分!’サンフランシスコといったらもうブルース、ヒッピー、ロックのメッカ!「わぁ、こんなところで仕事させてもらえるんだ」と思って指差す先のナパなんかに目もやらずにサンフランシスコ、バークレー、オークランドばっか目がいっちゃう(笑)。
そして卒業して半年でアメリカ、24か25歳になったばかりの時ですね。

ワイン登場

2018 高畠醗泡 プリデムースデラウェア


ただいま冷やし中

辰巳:ちょっと飲みながら話しましょうか。ワインも冷えてきた頃だし。じゃ、お願いします(川邉さんがワインを開けます)。
今日はスパークリングワインを持ってきていただきました。これは「高畠醗泡」ですね。

川邉:はい、’’はつ’は醗酵の’醗’に泡で「醗泡(はっぽう)」です。発泡酒の’発’とは違って’酒辺’がつくことで、酵母が瓶の中でニ次醗酵を行って造った泡ですよという意味の新しいシリーズです。

辰巳:命名は川邉さんですか?

川邉:そうです。’prise de mousse’というのが瓶内ニ次醗酵のフランス語なんですけど、それを漢字で表すとこうなるんじゃないかと。
自分しか知り得ないことを文字に隠すのが好きなんですよ。

辰巳:ではでは、(川邉さん)ご自身の手で抜栓していただこうと思います。これは、デラウェアですね?

川邉:そうですね、種無しではなくて種のあるデラウェアなんです。そうすることによって種が残ってるお母さんの方が赤ちゃんの方に栄養を送ろう送ろうと頑張るもんですから味が非常に濃くなるんで。種無しデラウェアよりは酸があって凝縮度が高く、味がしっかりしているんです。
デラウェアというと皆さん’あー食用か”と思われがちですが3/4くらいはヴィニフェラ(ワイン用ブドウ)のDNAが入ってるんで、素直に造るとテーブルワインになり得ると我々は心得てます。

辰巳:これは(発売して)2年目くらいでしたっけ?

川邉:そうです、2017年がの収穫が最初です。これが2018年で、かなり売れてきて年間24.000本くらい。

辰巳:そんなに売れてるんですか!?

川邉:(頷)通年配荷できる体制は整えてます。

辰巳:お値段も手頃で。

川邉:瓶内ニ次醗酵でコルク・ワイヤーフィニッシュで税込1800円。

辰巳:これはちょっと信じられない、ですよ。なんか悪いことしてるんじゃないか?と思ったりね(笑)

川邉:悪いことはしてないですけど、かなりお求めやすい価格にできるように我々としても努力してます。

スパークリングのワインを注ぐシュワシュワとした音


シュワシュワ音をマイクで拾います

辰巳・川邉:では乾杯🥂

辰巳:うん、うん、なかなかこのスッキリ感と泡もそんなに強くなく。

川邉:鋭いですね。気圧4.5くらいにしてあります。若干オリがあるので5にすると吹きこぼれが出てくる可能性があるので。

(ここでスタッフにも振る舞い酒が。
この間さらに冷やします)

辰巳:このキレがいいですよね。

川邉:昔ながらのお土産で売っていたデラウェアはキャラが強すぎて嫌いな人もいたんですけど、このブドウは’グリ(グレー)’と言って皮が紫色。フェノール(タンニン)成分を皮に含んでいてそれが果汁に溶け込むとエグミが出るんで、我々はそのエグミが出ないように優しく絞り、その果汁をさらに渋みの成分を落とすように沈殿させて上澄みの旨みの部分だけを発酵させています。一度完全にワイン(スティル)に仕上げて濾過までして。

辰巳:あ、濾過までするんですね。だからこんなに泡がクリーンなんだ。

川邉:昔でいうシャンパーニュ製法、今でいう伝統的製法とまったく同じ製法です。ただ、最後のデゴルジュマン(澱引き)はしてない。
ワインを瓶に詰めるときに酵母と糖分を加えます。通常(シャンパーニュ製法)だとそれぞれ加えた後寝かせてその後澱引きをするんですけど、我々はその荷姿まで持ってっちゃってるんです、ラベルも貼って。それで箱に詰めて一定の温度に保てる環境のもとでパレットごと積んでおいて、箱の中で発酵させるんですね。『瓶内箱内発酵』みたいな。

辰巳:これは!(今までに)ないですね。

川邉:そうすることで瓶詰めラインを1回しか走らせないで済むのでコストを抑えることができるんです。

辰巳:瓶詰めしてから消費者の手元に届くまで最短でどれくらい?

川邉:最短で3~4週間で届きますね

辰巳:ん、まだ発酵が終わってないんじゃ?

川邉:発酵は10日から2週間。(日本の)酒税法では確実に発酵が終了しないと発売できないという決まりなんで。あらかじめ100本に1本という割合で瓶詰めの時に抜き取っておいたサンプル0.1%~0.2%の割合で確実に(アルコール)発酵が終了したという分析で確認してから最終的に’申告’となるわけです。

辰巳:アルコール度数はどれくらい?

川邉:12.5%です。

辰巳:(ニ次発酵前に)若干補糖してます?

川邉:アルコール度数1%アップさせるために少ししてます。

辰巳:補酸は?

川邉:種ありデラウェアはほとんど補酸は必要ないです。

辰巳:いやぁ、それにしても1.800円は嬉しいですよねぇ。

川邉:デラウェアは今日本で最大の産出県なんです。その中でもこの種ありというのは置賜(おきたま:山形県の南部中央)エリアは増えてるんです。

辰巳:戦前は大阪だったりしましたよね?山梨県も多かったはずですけど。

川邉:今はその山形の中でもいちばんは高畠なんです。群でいうと置賜郡。それでも毎年5%の農家の方々が(高齢化で)辞められるという。荒っぽい計算ですけど後10年で半分になる。だったら種無しでなく、ジベレリン処理(種をなくすための化学的処置)をしない種ありの”ワイン用原料=種無しより手間がかからなくて値段は240~250円/1kgを保証します”というプログラムを始めたんです。

辰巳:しっかり保証するんですね。

川邉:もちろんです。(生食用)種無しデラウェアは栽培がものすごく大変で、収穫して選果して箱に詰めて重さを計ってスーパーに並んでいる荷姿までを(農家)1軒1軒が作らなければいけない。栽培+梱包代行料で600~800円/kgなんですよ。一方ワイン用種ありブドウだとそれをやらなくてもいい。置賜はこれをマーケティングしてますから、何かこれで新しい付加価値のあるワインを造れませんかね、ということになってこれ(醗泡)を造ることに。「泡だったら瓶内2次だろう、瓶内2次でシンプルに造るにはどうすればいいだろう?」最近濁りのワインも増えてきてるけど、じゃぁ高畠基準の濁りってのを考えた時に出た答えがこれだったんですね。

辰巳:川邉さんはあまり濁りが好きじゃないってイメージあるんですけどそうでもないですか?

川邉:そう、、、でもなくてー。許される濁りはいいと思うんです(笑)。

辰巳:許される許されないってかなりビミョーな話になってきますね(笑)。

川邉:コンクールの審査にも採用されてるデイヴィスの20点満点法では’外観’が2点もらえるんですけど、その内の1点が清澄なんですね。濁りは清澄してないんでその1点はもらえないんです。もう一つは色なんですよ。これ(醗泡)は黒っぽくない茶色っぽくない、青っぽい色なんで2点のうち1点はもらえる。濁っていても綺麗な黄色とかグリーンに発色しているものであれば、私はいいのかなと思っています。

辰巳:最近濁り、とかビオ系のワインとか増えてますけど、そういうのはどっちかというと批判的なところもある?

川邉:振られると思ってました(笑)。

辰巳:まぁ長くなりますからね、その話は(笑)。一言で言うと?

川邉:一言で言うと、(学生時代の)骨董品のバイトの話ですけど。日向美術っていうんですけど、そこの社長が「川邉、うちの店名の’美術’って意味わかるか?」って言うんです。「その骨董の中でも美術的価値がある名品と、ただ古いガラクタは全く違なるもんなんだよ、古ければいいと言うもんではないんだよ」と。だから自然派とかビオとか不自然派ってのは私の観念ではないんです。私の中であるのは’健全’か’非健全’かどっちかなんで。自然派じゃなくても健全じゃないワインもある、自然派であっても健全であってくれれば私は評価するかな。

辰巳:まぁそんな感じかなとは思ってました。この話は深く長くなるので、次回にーーー伸ばさなくてもいいかな(笑)、また別のところでできればいいなと思ってます。
川邉さんの存在は日本ワインの業界で最近ますます大きくなってきてます。これからどんなことをされるのか、楽しみにしてる中でこの’prise de mousse’の発売はいいもの造ったなーと拍手です!

川邉:ありがとうございます!

辰巳:僕もこれから普段飲みしたいと思います。この続きはまた次回、次回はどんな話にしようかなー。

川邉:お手柔らかにお願いします。

辰巳・川邉:ありがとうございました!

株式会社高畠ワイナリー
山形県南部の高畠町に1990年創業のワイナリー。
シャルドネやカベルネなどから造るプレミアムワインから、生産量日本一を誇るデラウェアのカジュアルなワインまで、幅広いアイテムを展開している。
「高畠ワイナリー100年構想」を掲げ、ワインだけでなく、ワインのある暮らしや経験を提供できる「ことづくり」へのワイナリーを目指す。

>> https://www.takahata-winery.jp

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