八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」2019年4月4日放送分

ゲスト:太田直幸さん(三次ワイナリー醸造長)
全2回

ニュージーランドで醸造を学び、今や三次ワイナリーの顔と言ってもいい太田さんは実は若い頃は◯◯になりたかった?
第1回目は出身地大阪から上京、その後ニュージーランドに渡って人生を変えた珍体験(?)や苦労話など’若き’太田さんを振り返ります。
大阪出身コンビの軽妙な関西弁トークを想像しながらお楽しみください!

辰巳;今回からはワインの造り手をお迎えしていろいろお話を伺っていこうと思います。記念すべき第1回目のゲストは
広島県の三次ワイナリー醸造長の太田直幸さんです。

辰巳・太田:こんばんは、よろしくお願いいたします!

辰巳;ラジオなので(見えないんですが)ちょっと濃いめの顔で、メガネかけてて言葉は大阪弁で。(←太田さんの風貌の形容です)
大阪はどちらですか?

太田:平野区です。

辰巳:私は住吉区なので実は近所だったという。おいくつですか?

太田:49歳、今年50になります。

辰巳:ワイン造り始めてどれくらい?

太田:十数年ですかね。ニュージーランドに渡ってからだから30代からです。

辰巳:言ってみれば’転職組’ですね。

太田:日本にいる頃はミュージシャンになろうと思ってました。

辰巳:なんかそんな感じします。

大阪出身同士の関西弁トーク。左が太田さん。ミュージシャン志望だった片鱗、見えますか?

太田:でも鳴かず飛ばずで。才能がないのか世間がついてきていないのかわかりませんが、その頃はまだ突っ張ってましたから(笑)。とにかくミュージシャンの道はきっぱり諦めて28歳の時にニュージーランドに渡りました。

辰巳:それまでは大阪に?

太田:いえ、18歳からは東京にいました。10年くらいいたタイミングでぼちぼちかなと。

辰巳:ちなみにどんな音楽を?

太田:ロック系のポップスみたいな。

辰巳:それで28歳でスパッとやめて?

太田:たまたま英語の勉強をしなければいけない状況になって調べたらニュージーランドが行きやすかったんですよ。決めて2週間後には(ニュージーランドに)上陸してました。

辰巳:割と思いついたらパッパッパと?

太田:そうです、思いつき系です。

辰巳:(血液型は)何型ですか?

太田:O型です。

辰巳:割と何も考えない方?

太田:本人は考えてるつもりなんですが、周りから言わせると何も考えてない、と。
最初はカナダに渡るつもりだったんですよ。でもカナダはヴィザが取り難かったので。(ニュージーランドは)まぁ半年くらい行ったら英語ペラペラやでぇ、のつもりが・・・全然喋れなかった(笑)。

辰巳:勉強きらい?

太田:そんなことはないですよー。一生懸命やるんですけど、ニュージーランドは訛りがあるんですよ。日本ではアメリカ英語でしょう?
ニュージーランドはイギリス英語に近いんですけど、それともまた違う。キウイイングリッシュという独特の訛りがあるんです。聞きづらい英語なので最初の1−2ヶ月はほとんど何言ってるのかわからない。顔の表情で「あ、怒っとるなぁ」とか「お、めっちゃわろてる」くらいはわかるけど言ってる言葉がわからない。

辰巳:しっかし勇気ありますねー。街はどこだったんですか?

太田:クライストチャーチです。最近暗い事件があったんですけど。

辰巳:(ニュージーランドに)行くまではワインあんまり飲んでへんかったけど行ってから飲むようになった?

太田:それまでもお酒全般飲んでました。ワインも好きだったんですけど、(ワインの)何がどうとかわからず「やっすい(安い)白ワインがあるとか赤ワインがある」とかそういうレベルでした。

辰巳:で、半年間のつもりが?

太田:行ってみたらええとこで、もうちょっと住みたいなぁと。

辰巳:何がよかった?

太田:見たことのない景色、大阪や東京の人口密度のすごい(高い)ところで生まれ育ったけれど、クライストチャーチは当時35万人くらい。平野なので高い建物がない、平家かせいぜい2階建で辺りはすごく広いんですよ。車で10分も走らせるともう田舎で羊しかいない。
どんどん走らせると普通の道路で200頭300頭の羊に会うんですよ。(羊が)右から左にザーーーと横切る。ニュージーランドの法律で、自分が(車が)通りたいからといってクラクション鳴らすのは違法なんですよ。ひたすら待つだけなんです。けっこう大変なんです(笑)。

辰巳:そりゃ気が長なりますね。

太田:気の利くファーマーは途中で切ってくれるんですけどね。
横柄なファーマーは「羊が優勢やでー」でそのままひたすら待つだけ。まぁ人のおおらかさも今までにない経験でした。

辰巳:人生観変わる、みたいな?

太田:そうですね。すごくいい人なんだけど時間にルーズとか、悪気がないんやろなっていう笑顔なんですよね。それが(ニュージーランドでは)当たり前なんですよね。

辰巳:それが(太田さんには)合ってた?

太田:こういうのも暮らしとしてありだな、と。きちっきちっとした生活じゃなくて、いい意味でのいい加減さも自分には必要なのかな、と。自分で言うのもなんなんですけど、割とストイックな方だったので。

辰巳:きちっきちっとした性格?サラリーマンとかやってた?

太田:そうではないですけど、音楽に対してもシビアで、才能ないくせに一生懸命頑張ってものすごく追いつめたりとかね。決めたことは絶対やらないといけないとかきちっとしたとこがあったけど、ものすごくルーズな国民性のところにパッと行ったら、自分が思ったことが全部正しいとは限らんな、と思ったんです。20代後半でそんなことを思って、もうちょっと居たいなぁと。30代に前半なった頃「どうせなら永住権申請しよう」ってなって申請したら取れたんですよ。そうなったら好きなだけ居ようと思った時に「この国で何ができるのか?」「人間にとっていちばん大事なものは何か?」を考えたら「食」って大事だなと思ったわけです。ま、農業ですよね。元々ものづくりが好きなんです。食に関するものづくりってシェフでもなんでもいいんですけど、僕は農業で野菜とか食べ物を作ることに憧れがあって。これで何かやろうってなって、色々探しているうちにたまたま出会ったのがブドウ農園のお手伝いやったんです。

辰巳:それまでもいろんなアルバイトとかはやってた?

太田:現地のツアーガイドとか3−4年やってました。その頃には英語もまぁまぁできるようになってましたし。

辰巳:ブドウ(農家)のお手伝いをするようになったのは(ニュージーランドに)渡って何年目くらいなんですか?

太田:30代中盤くらいの時です(渡って7年目くらい)。
結局28歳から43歳までですから全部で15年居たことになりますね。

辰巳:半年のつもりが15年!

太田:もうぜんぜん計算できてませんね。頭の中がニュージーランド人(笑)
で、結局向こうの農家で出会ったのがワイン用のブドウやったんです。(ブドウを)収穫したらワイナリーに持って行って醸造する作業を見てたら面白いなーと。いつも飲んでるワインは「あーこうやって造られてるのか」っていうところからもっと追求したくなっていったんですよね。そっからどんどん勉強するしブドウ栽培もするけど、所詮独学。(なんとかしなきゃと)たまたまクライストチャーチにリンカーン大学というニュージーランドでいちばんブドウ栽培とワイン醸造をきちっと教えている、古くからある学校にパートタイムで働きながら通ったんです。

辰巳:きちっとこの道で行こうと考えたわけですね?

太田:そうですね。もう知りたいと思うととことん知らないと気が済まない。自分がやりたいことが間違ってないと裏付けるためには大学行って検証しないといけないなと。

辰巳:その頃は日本人の醸造科とかどんどんニュージーランドに行き始めた頃ですよね?

太田:その頃は(日本人では)ワインを造り始めた人はニュージーランドには4−5人来てたくらいかな。まだ少ない方だと思います。

辰巳:じゃ、リンカーン大学には太田さんだけ?

太田:いや、何人かいました。

辰巳:へぇ、最近ニュージーランドに(ワインの)勉強に行くのがブームみたいな感じですからね。

太田:今もよくワイナリーの人から相談されるんですよ、「リンカーン大学に留学しようと思うんですけどどう思いますか?」って。
でも基本的にはオススメしてないんです(笑)。僕はたまたま住んでて永住権もあって安い学費で行けたからいいんですが、外国人が行くとなると結構学費が高いし、しかも全部英語。まず英語を理解するのにエネルギーの半分以上使うわけですよ。残りの半分はさらに難解な化学があったり栽培の勉強があるわけです。だったら母国語である日本語で勉強した方がいいんじゃないですか?っと。自分はそれだけ苦しんだから、英語で。聞いたこともないような化学式とか、化合物の名前をさらに英語で書かないと、言わないといけない。外国人だからといってスペルミスがあったら減点ですから。英語一つだけでもかなりハードルが高い。ニュージーランドで勉強しましたーって言ったらカッコいい。憧れるでしょうけど、ただ二重苦三重苦の勉強ですからそりゃオススメできないでしょ。

辰巳:やっぱり苦労しはったんですね

太田:苦労しましたね、自分で言うのもなんですけど。頭おかしくなるくらい。

辰巳:せっかくなんでここからはワイン飲みながら・・・

ワイン登場

三次ワイナリーTOMOE小公子Muscat Bailey A 2017

太田:うちのTOMOE小公子マスカット・ベーリーAをお持ちしました。

ワイン注ぐいい音

辰巳:この小公子というブドウはかなり可能性のある品種だと思ってるんですけど?

太田:実はニュージーランドから帰ったばっかりの時に、あまり好きな品種じゃなかったんですよ。ヨーロッパにはないブドウなので。
まぁヤマブドウですからね、ワインとしてはとても飲みにくいなぁと。でもせっかく樹があるので。美味しく飲むための工夫をしなきゃいけないということで、マスカットベーリーAを少しブレンドして造りました。

乾杯!!!

辰巳:かなり細かくしっとりとしワインですよね。酸味も強くて旨みもあるし。

太田:普段チリとかフランスとかヨーロッパのワイン飲まれている人には馴染みがないワインなんですけど、ちょっと刺激が欲しい人にはオススメかもしれないですよ。小公子とかヤマブドウ系とか何も考えずに注がれて口に運んだ時にどう感じるか?人の反応を見るのがすごく好きで。

辰巳:どうですか、評判は?

太田:これすごくいいです。

辰巳:僕も大好きなワインです。

太田:ありがとうございます。すごく評判もよくてリピーターも多いんですけど、生産量が少なくてなかなかいつもあるってわけにはいかないんですけど。今日はフライングで持ってきたんです。

辰巳:これは2017年?リリースは?

太田:今年の7月でまだ(リリース)前なんですけどどうしても飲んでもらおうと思って。

辰巳:何本くらい造ったんですか?

太田:今回は2800本くらい、ちょっと多めに採れたので。少ないときは1500本とかそんなもんです。小公子は白ワインの造りかたのように軽めに造っても色は濃く出るんです。華やかな香りもバァっと出てくるんでそういう造りも面白いなぁって。

辰巳:小公子やヤマソーヴィニョンもそうだけど、経験上ヤマブドウ系は別の品種とブレンドすると香りがフワァっと出てくる。ちょっとピノ・ノワール混ぜたりすると面白い香りになってくる。
ベーリーAは何パーセントくらい混ぜてる?

太田:20~25%くらいかな。ヴィンテージによって変えるんですよ。毎年チェックして「今年はこれでいこう」という具合に。

辰巳:ブレンドっていうのはほんと面白い。ウィスキーならヴァッティングとかってね。いろんな原酒を混ぜてね、好みのブレンドにするんですけど。
これは(この小公子とベーリーAは)本当に幸せな出会いだった気がしますね。

太田:ありがとうございます。小公子もベーリーAも日本の品種。日本人がワインのために造った品種同士、’ジャパンブレンド’で造ることにこだわったんですよ。これがメルローだったりピノ・ノワールだったりすると多分美味しくないと思います。自分が日本のブドウだけで造りたかったっていうのが一つのこだわりとしてあるんですね。

辰巳:メルローとかカベルネとか混ぜるのはなんかシャクやなぁってのがあるんでしょうね。

太田:あります!勝手な僕のイメージですけど「弱い日本人がアメリカ兵に助けられてる」(笑)。小公子にヨーロッパ系品種をちょっと入れることでよくなるっていうね。よくなるのはいいんですけど、もともと小公子を造った人に対して「やっぱちょっと違うな」っていう。「日本でワイン造るなら日本のブドウ使いなさい」。で造られた品種だって聞いてるので。

辰巳:ヨーロッパ品種とアメリカ品種を混ぜて造ったのがベーリーAで、小公子は?

太田:小公子はわからないんですよ。謎なんですよ。でも造った人に「日本でワイン造るなら・・・」という思いがあるので。

辰巳:澤登晴雄先生ですね

太田:そうです。ベーリーAは川上善兵衛さんが本当に苦労して造った品種ですから。その日本人のスピリットを受け継いだブレンドを造りたかった。誰もやってなかったんで。誰もやってないなら俺がやってみよう!で、実際やったら美味しく仕上がったんで、うちではこのスタイルで小公子を提供してます。

辰巳:なるほどー。
これおいくらでしたっけ?

太田:¥2700(税別)です。

辰巳:小公子、広島でもだんだん造られるようになってますが、自社畑?

太田:自社畑ではないんですが、自社畑のような管理をしている農家さんの畑で十数年前から造ってます。

辰巳:え、そんなに前から?以前からありましたっけ?

太田:ありました。私が来る前までは’小公子’単独で造ってました。2013年からこのスタイル(ベーリーAとのブレンド)になったんです。
2012年の12月に帰国して2013年に僕がここに来てからです。

辰巳:いろいろ聞きたいんですが時間も迫って来ました。どうやって広島にやって来たのかはまた次回に。
ところでこのワイン、どんなグラスでどんな食べ物に合わせたらいいかオススメはありますか?

太田:ボルドータイプのグラスがいいんじゃないかなーと思います。
ストロークが縦に長いので。
食べ物はラムとかジビエとか癖のあるお肉と合わせるといいですね。

辰巳:結構スパイシーな感じもありますしね、野性味というかね。はっきりしっかりした味のものでもいけそうな感じですね。

太田:そうですね。後味にベーリーAの甘い香りが残るので、野性味だけではないんですよね。単体で飲んでも味わえますし、料理だったら癖のあるお肉。

辰巳:温度もちょっと冷やしめの方がよくありません?

太田:そこは好みなんでしょうけど、15-16℃でもいい感じですかね。
樽でも熟成させてるんでね、18ヶ月。普通よりもちょっと長めなのでしっかりとした塾生感と樽の香りもしっかりと感じられます。

辰巳:新樽は半分くらい?

太田:ほとんど使わないです。多分5%以下。

辰巳:なるほど。
ちょっと試しに瓶詰めしたのを持って来ていただいた「TOMOE 小公子マスカットベーリーA」ですが、リリースを楽しみに待っております。
あっという間に時間が経ってしまいましたが、この続きはまた次回。
今日のお客様は広島三次ワイナリーの醸造長、太田直幸さんでした。

辰巳・太田:ありがとうございました!

*三次ワイナリー(広島県三次市)
1991年設立
1994年、三次市、JA三次、ブドウ生産者と観光協会所属の企業が資金を出し合って稼働
2007年から発売された三次産100%のブドウを使った
TOMOEシリーズは三次ワイナリーのフラッグシップとなった。
施設内には醸造所のほかバーベキューガーデン、カフェ、ワインショップなどもある観光施設になっている

>> miyoshi-winery.co.jp

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