今回のゲストはグレイスワインとしてお馴染み、中央葡萄酒 (山梨・勝沼)取締役 栽培醸造部長の三澤彩奈さん。その容姿もさることながら、ふふふと笑う声まで可愛らしい彼女は子供の頃から”甲州”の英才教育を受けていた?
勝沼の老舗ワイナリーらしいエピソード満載です。全2回(前編)。
辰巳:今日のゲストはですね、ようやくといいますか、待ちに待っておりました、山梨の中央葡萄酒(グレイスワイン)の三澤彩奈さんです!
辰巳・三澤:よろしくお願いします!
辰巳:日本ワインブームになって来た今、その中でも最も有名な人になっている一人になりましたね?スターのイメージがあるんですけど?
三澤:とんでもないです、ぜんぜん。泥臭い仕事ばっかりしています笑。
辰巳:日々まぁそりゃそうなんでしょうけどねぇ。今何代目?
三澤:5代目になります。
辰巳:5代目の、お嬢さんというか美人醸造家みたいな感じで笑。
海外でも評価をされているし、ちょっと前から隔世の感になって来たんですけども。
今の肩書きとしては中央葡萄酒の醸造長になるんですか?それとも社長?笑。
三澤:社長はまだ父が、私は栽培と醸造の責任者という形で。
辰巳:勝沼に元々ワイナリーがあって、中央道(高速)も甲府も超えた八ヶ岳手前の明野におっきな畑と新しい醸造所ができたんですけど、基本的にはそこにいる?それとも勝沼?
三澤:そうですね、(勝沼と明野は)40kmぐらい離れてるんですけど、行ったり来たりの生活です。
辰巳:でも中心はどちら?以前は確か韮崎に住んでましたよね?
三澤:そんなんです。けど今は勝沼と、あと(明野)ワイナリーにも宿舎があるのでそこで・・・。
辰巳;ま、まさかオーベルジュがあるとか?あそこいい場所だし眺めもいいし。そんなのができたらいいなと笑。
三澤:笑笑。そうですね、北杜市(明野)の方はそういうご意見たくさんいただきます。
辰巳:まぁ勝沼の方はだんだん温暖化の影響もあって暑くなってきて(ブドウ栽培は)どんどん標高が高い方へ高い方へと移行してますが、明野の標高はどれぐらい?
三澤:700mぐらいあるので涼しいところです。
辰巳:ブドウ栽培には最適な気候だと言われてるんですよね?今畑は何ヘクタールぐらい?
三澤:明野は12haぐらいです。
辰巳:基本的には自社畑はほとんど明野?
三澤:勝沼(鳥居平他)にも。。あとは明野の周辺にも自社の管理する畑があります。
辰巳:一昨年の10月末に、日本ワインもようやく”法律上”の名前が公に認められたんですが、どうですか、感覚として、実感として?
三澤:そうですね、いろんな方が興味を持ってくださるようになって。今まで不透明だったものがクリアになったりだとか、健全な業界、産業のためには必要だったのかなぁってのは思います。
辰巳:動きはお父さんの代から活発に、KOJ(Koshu of Japan)として海外にもどんどん進出するようになって。そういう意味ではお父さんは船頭役ですよね?(彩奈さんは)こういった海外的は活動はあまりやってない?
三澤:私自身はどちらかというと栽培・醸造専門というところもあって、逃げているわけじゃないんですけど、畑にいることがとにかく好きなんです。
辰巳:とにかく”いいワイン”を造ろうと?
三澤:そうですね、能力不足でそこに留まっています笑。
辰巳:能力不足なんてそんなそんな。。。いいワインを造ることが一番だもんね。
じゃぁ飲みながらお話し続けましょうか。
(ワイン登場)
GRACE KOSHU(グレイス甲州)2018
辰巳:こちらは2018年の「グレイス甲州」です。最もスタンダードと言いますか、中央葡萄酒の中でも基本のワインですよね?
三澤:原点みたいなワインなので、今日”白1本”って言われたらやっぱりこれかなーと思ってお持ちしました。
辰巳:これもEUにも出せる仕様(詳しくはhttps://www.nrib.go.jp/bun/eu_wine/pdf/euwiney_qa.pdf#search=%27EU基準+ワイン%27)になってるんですよね?
三澤:そうです。
辰巳:ではカンパイしましょう!
辰巳・三澤:カンパイ!!!
辰巳:んーーーーー、美味いっ!グレイス甲州ってのはいつ頃からこのスタイルで?20年、もっと?
三澤:そうですね、もっとかもしれないです、父の代からずっとやってきましたから。(ラベルには)書いてはいないんですが、勝沼のブドウのみを使っています。
辰巳:”勝沼産特別醸造”って一応書いてありますよ笑(三澤:あ、ごめんなさい)。やっぱりそういう風にだんだん絞ってきたんですね?トレーサビリティーってのは大事ですし、安心感かつ特徴も出るもんね。
『これはステンレスタンクでの発酵・醸造で、シュール・リーや低温発酵をあえて行わず、甲州本来が持つ透明感や清涼感、繊細な果実の香り、凛とした特徴的な味わいを生かすように丁寧に、大切に醸造しています』。
これ、いい言葉ですね?思わず全部読んじゃいました(裏ラベルを読み上げました)笑。
三澤:これは一応私が考えて書いているんですけど。
辰巳:すごく言い得てる。そうか、シュール・リーもやってないんだね?
三澤:やっぱりシュール・リーしちゃうと酵母の香りが強くなってしまうので、そうではなく、もう少し甲州の持つピュアな感じを大事にしたいなぁと思って造ったんです。
辰巳:甲州ってどっちかっていうとシャバシャバ感があって、どうしても”水っぽい”とか”甘味を足さないとバランスが取れない”とか言われますけど。このワインの秘密、聞いてもいいでしょうか?
三澤:はい、もちろん!今日辰巳さんと話したら面白いなと思ってたんですが、最近の甲州ではあまりこういう香りが少なくなってきた気が若干していて、、、。
辰巳:最近はここにも書いてある通り、低温発酵させたりとか”甲州らしくない造り”をしているワインが多いような気がしてね。でもこれは元々ある、昔ながらの甲州の良さをきちんと残して、かつ凝縮感もあってね、すごくいいバランスだと思うんですけど。
三澤:この甲州は標高400m 以上のブドウを使うっていうことにこだわっています。
辰巳:!勝沼に400m以上の畑って多くないんじゃないの?
三澤:やはりいい畑は全部山の方に集まってるので、そういったところのブドウを使って、、、。
辰巳:鳥居平とか菱山とか?
三澤:そうですそうですそうなんです。甲州には白桃とか洋梨のような香りを子供の時から感じてたんですけど、今けっこう柑橘系の甲州とか、辰巳さんおっしゃってたような低温発酵した吟醸香のような香りがすごく多いけど、、、。
辰巳:きいろいのとかね。それはそれでいろんな特徴の甲州が、商品が並列するのはいいことだと思うんですけどね。
三澤:はい、私もそう思います。かつて私が”甲州の香り”と思っていたものがだんだん少なくなってきていて。今だからこそ逆にこういう甲州を「この造りでずっといきたいなー」と思うんですけど。
辰巳:ワインの数自体が少なかったからってのもあるんですけど、昔は中央葡萄酒のワインを飲む機会も多かったんですが、最近はいろんな新しいワイナリーができてきていろんなワイン飲まなくちゃいけないから、正直言うとグレイスさんのワインを飲む機会も減ってる。
これを機にまたちゃんと飲まなくちゃいけないなと、思うなー。
これはおいくらですか?
三澤:これは飲食店専用なので小売は基本的にはしてないんですけど、オープンでだいたい3000円前後ですね。
辰巳:ワインショップとかではこの値段ってこと?日本ワインの場合あまり割引もしてないからお店でもそんなに安くはできませんもんね?そうか、でもブドウをきちんとセレクトしてしてるんですもんね。
三澤:そうですね。
辰巳:これって補糖もしてる?
三澤:これもヨーロッパ(EU)で決められた法律をきちんと守るようにしています。
辰巳:あれ、なんかシール貼ってますよ。デキャンター(イギリスのワイン雑誌、デキャンターが冠のワインコンペ)で95点!?
三澤:そうなんです、去年のデキャンターで金賞をいただいてます。
辰巳:おめでとうございます!っていうかもう金賞慣れしてるんじゃない笑?
三澤:いえ、とんでもないです。
辰巳:毎回出す(出品)度にキチンと獲ってて。デキャンターの金賞獲るにはどうすればいいのかわかってるんじゃないですか?(コラっ!)笑。
三澤:笑笑。そんな。。。そんな裏はないです、面白い話なくで恐縮なんですけど笑。
辰巳:でも絶対”傾向と対策”ってあるじゃないですか?”ロバート・パーカー(アメリカのワイン評論家)が好きな味”とかなんとか・・・。そんなことはやらないんですか?
三澤:そうですねー・・・あんまり、、、そういうビジネス風にはあんまり考えてないんですけど。その、よく聞かれるんです「ヨーロッパに出すワインはヨーロッパの人の好みに味合わせてるんですか?」って。
でも自分自身の造りたいもの造ってるので、そういうことはしてないです。
辰巳:ブドウを信じていいもの造ろうという感じ?
三澤:はい、だって”甲州大好き”なのでー。
辰巳:そうか、いわゆる「グレイス甲州」に”勝沼産特別醸造”ってちっちゃく字が入ってて普通の「グレイス甲州」とは違うもんなんですね?
三澤:いえいえ、同じです「グレイス甲州」、通常の「グレイス甲州」です。
辰巳:ぇ、そうなの?あれ?通常のやつってだいたい2000円ぐらいで出てたじゃないですか?
三澤:ぁ、それは「グリ・ド・甲州」という・・・。
辰巳:もう一つなかったっけ(「グレイス甲州」にこだわってます)?
三澤:(「グレイス甲州」は)父の時代にけっこう造っていたのでその頃からは(ラインアップ的に)削ってはいます。
辰巳:削ってるって?
三澤:ラインアップをもうちょっと整理して数を減らして、、、。
辰巳:なるほど。今日のグレイスの生産本数はどれぐらい?
三澤:毎年変わるんですけども、だいたい2万本から4万本ぐらいですかね。
辰巳:だんだん専門的な話をしたくなってくるんですけど笑。俺の興味あることを聞いていこうという番組でもあるのでついつい聞いちゃう。一番生産本数が多いアイテムは何なんですか?
三澤:やっぱり「グリ・ド・甲州」と「グレイス甲州」。これが同じぐらいかグリ・・・が少し多いぐらい、です。
辰巳:グリ・・・もこないだあるイヴェントで久しぶりに使わせていただきましたが、よかった(美味しかった)ねぇ。何だろう?定番商品って飲み続けると飽きちゃうんだけど、確実に飽きないようにそれなりにパワーもアップしてるのかなぁという。
そんな感じさえしましたよ。
三澤:そう、、、であって欲しいですね。それなりに古い会社なので、お客さんの目っていうのもそれなりに厳しくて、そうじゃなきゃいけないなってホントに思います。
辰巳:今山梨の中でもリーダー的存在じゃないですか?”勝沼の御三家(丸藤葡萄酒工業、勝沼醸造とともに)”と昔から言われてましたけど、地元のメーカーが頑張ってるのは必要なことなんですよね。大手(ビール会社など)は大手の使命はあるし。
ま、グレイスさんも地元の大手でしょ?
三澤:いえいえ、けっこうそういう風に言われるんですけど、量とかも(少なくて)ビックリされるんですよね。
辰巳:30万本ぐらい?
三澤:いやいやいやいや!全然そんなにいってないですよ、15(万本)とかじゃないですか?
辰巳:!あ、そう。明野も合わせて?
三澤:そうなんですよ、だから他の昔からの家族経営のワイナリーの方がずっと大きかったりするので。
辰巳:お父さんがね、アメリカ系とか交配品種が好きじゃなんですよね笑?ベーリーAも少ないし。デラウェアもないでしょ?
三澤:そうなんですよね笑。
辰巳:山梨で(マスカット)ベーリーAとかデラウェアって造ってるとこ多いんですけど。彩奈ちゃん、ベーリーAは手がけてるでしょ?
三澤:はい、ベーリーAは今2つ手がけていて、一つは山梨の「グレイス」という赤のスタンダードなもので、もう一つは「周五郎のヴァン」と言うフォーティファイドのワイン造ってます。
辰巳:でもやっぱり甲州が好き♡?子供の時から飲んでたんでしょ?
三澤:飲んでました笑笑笑。スイマセン笑。(←時効です)
辰巳:フランスとか赤ちゃんが生まれると、指にワインを湿らせて舐めさせる、みたいな慣習がありましたしね。
三澤:父とかが発酵中のワインを味見するじゃないですか?その横で一緒になって味見すると、まだ当分が残ってて甘くてちょっと炭酸も出てるので「すごく美味しい♡」。
辰巳:へぇぇぇ(ちょっと羨ましそう)?それはいくつぐらいの時?
三澤:もう、ホントに子供の頃から笑笑。
辰巳:だって美味しいんだもんねぇ?
三澤:そうなんですよー。
辰巳:そういうのをもっと飲めるようにしようという運動もやってます。「日本のワインを愛する会」、一昨年の発足式に彩奈さんにもきていただきましたが、我々がこの会でどんな活動をしていくか、って考えていく中で、もっともっと自由なワイン造り、、、
あの、飲酒年齢を下げろとは言いませんが、今醸造中の味見も厳しいじゃないですか(酒税法で)?どういう風にしたらいいか、そういう声も挙げた方がいいと思ってるんで。いいワイン造らなきゃいけないのに醸造中に味見もままならないって、ねぇ。
三澤:笑笑、そうですねぇ。
辰巳:オーストリアのホイリゲとかね、ドイツのフェーダーヴァイサーみたいなまだ発酵中のワイン。そういうの(日本でも)もっと広まっていいと思ってる、ワインの裾野を広めるっていう意味では。
(三澤:頷)
ところで彩奈ちゃん、あ、つい彩奈’ちゃん’って言っちゃうんですけど、いくつになりました?
三澤:えへへへ、、、それはー・・・。
辰巳:内緒だったっけ?最近は内緒なのー?
三澤:笑。いえ、そんなことはないですけど笑。最初に辰巳さんにお会いした時が2007年とか2008年とかでした。
辰巳:その頃24~25歳の頃?
三澤:いや、もうちょっと上でした笑。
辰巳・三澤:笑笑笑。(お察しください)
辰巳:そっかそっかそっか、ま、そんなもんか。
三澤:そうなんですそうなんです。
辰巳:そっか、もうその頃から頑張ってたんですね。ではそのワイン造りのこととかはまた次回、お伺いしたいと思います。今日のゲストは山梨勝沼、中央葡萄酒の5代目、三澤彩奈さんでした!
辰巳・三澤:ありがとうございました!!
News Data
- 八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」
2020年2月2日放送分
- ワイナリー
中央葡萄酒
山梨の勝沼に1923年から続く家族経営のワイナリー。53年には現在も続く「GRACE(グレイス)」をブランド化。勝沼のワインを活性化させるべく「勝沼ワイナリーズクラブ」の発足や、世界への”甲州”普及活動「Japan of Koshu(JOK)」を発動し、
毎年ロンドンでプロモーションを行うなど、日本ワインの知名度アップに貢献しているワイナリーの一つ。