今回のゲストは鹿児島県日置市に1845年(黒船来航より前!)から続く焼酎蔵、西酒造8代目の西陽一郎氏。焼酎メーカーでありながら、四半世紀のお付き合いの辰巳さんを”琢にぃ”と慕う氏との酒トークをお楽しみください!全2回後編
辰巳:今回のお客様、鹿児島の焼酎メーカー「富乃宝山」でおなじみの西酒造社長、西陽一郎さんにお越しいただきました。
辰巳・西:よろしくお願いしまーす!
辰巳:長いお付き合い、もう20何年。最初にお会いしたのはまだ(西さんが)20代でね。大学卒業して実家に帰って・・・ヤンチャなバリバリのね。すごかったですね、あの頃のキレ方笑。
何代目なんですか?
西:8代目です。
辰巳:!。江戸時代!?
西:1845年創業。
辰巳:天保16年?
西:弘化2年です。
辰巳:まだ黒船が来る前ですよねー。それから8代、ずっと焼酎メーカーだったんですか?
西:そうです。
辰巳:焼酎メーカーといってもね、”芋焼酎”の歴史が始まったのもその頃なんですよね?もっと古いもんだと思ってましたけど。サツマイモ自体がね、コロンブスがアメリカ大陸で発見して入ってきて。
で、鹿児島でサツマイモ栽培が盛んになって「地元のサツマイモを使って焼酎を造れ」と島津斉彬さんが・・・。
西:そう、島津斉彬さんが推奨したんです。それまでは鹿児島も清酒造ってましたからね。
辰巳:「米は大事だから食べる方に回して、酒は芋で造ればいいじゃないか」。そんな感じ?笑。
西:だったんでしょうね笑。
辰巳:それまで誰かが”芋焼酎”を発明したの?
西:試行錯誤でやってたんですけど、芋焼酎に関しては元々はどぶろくみたいに芋だけでやってたのが、鹿児島式焼酎で麹を米で作って2次仕込みにしたのが最近ですよね。ここ50年ぐらいの感じですもんね、まだ。
焼酎の歴史は、大分から『鹿児島の大口ってところで、500年前の「焼酎を飲ませてくれない?」って書いた大工さんの板が見つかった』というのがあるんですけど、今の「鹿児島式2次仕込み製法」ってのが確立されたのは50~60年くらいのもんなんですよ。
辰巳:前の東京オリンピックの頃の話?僕は前の東京オリンピックの10年後ぐらいに大学入って初めて飲んだ芋焼酎が「さつま白波」。
西:私も飲んでました!
辰巳:クセのあるーーー!とか思ってましたけど、あれがまだ最初の頃なんですね?
西:そういう2次製法(2次仕込み製法)ができるようになって白波さんも全国に・・・。
辰巳:でも蒸留は前からやってたんでしょ?
西:やってましたよ。
辰巳:じゃ、何が一番違うの?米麹を使って芋を入れるんでしょ?
西:麹を使うでしょ、清酒も焼酎も。設備が悪い時代には米を芋に入れてもなかなか菌が繁殖できなかったんです。設備が整った今、米は麹になって、その段階でクエン酸が出るのでもろみ中(発酵)の腐造がすごく減った。仕込みの失敗がすごく減ったってことです。
辰巳:元々は泡盛が手本でしょ?泡盛も黒麹でしたっけ?
西:おっしゃる通り。
辰巳:泡盛の黒麹を使って芋焼酎ってことだったんですよね?だから芋焼酎は基本的に黒麹で、白麹もあるけれど・・・。
でも「富乃宝山」黄麹だった。
西:これも設備が良くなったからできることで、昔だったら考えらえない。
辰巳:黄麹って日本酒でいう普通の麹ですよね?それ(焼酎に)最初に入れたのは?
西:そうですね、私です。清酒は鹿児島でも造ってましたから焼酎も黄麹でもやってたんですけど、最初は日本酒で言うところの”山廃”みたいになっちゃうんですよね。酸を出さないし腐造ばっかりになっちゃう。
そう言う意味でも鹿児島では清酒を造られなくなっちゃったんじゃないでしょうかね。
辰巳:気候の問題?
西:そうです気候の問題。
辰巳:なんかワインの番組なのに焼酎について掘り下げてしまいましたが笑。でもやっぱね、焼酎メーカーの社長ですからね。メーカーの中でも確実な地位を占めてますし、その中でも昔から革新的でしたよね。
西:最初に(辰巳さんに)会った時は必死でした笑。
辰巳:(当時)白衣着て出てくるの、若が笑笑。もう実験室も持ってて試験管とかビーカーとかあって既に分析とかしてた。「へえ、こんなことやってんだー!?」って、最初の印象は”研究者”だったんですよ。
西:それが僕の姿ですから爆。
でも”琢にぃ(たくにぃ)”も変態でしたねぇ。(二人の関係は四半世紀まで遡るので、西さんは辰巳さんを昔から”琢にぃ”と呼んでいます。)サツマイモの畑に連れてったら土食べてましたからね笑笑。
辰巳:だってシラス台地でしたっけ?サラサラで気持ちよかったから笑。キレイな砂浜行ったら砂舐めたくなんない?
西:なりますね笑(←ぇw、なるもんなんですか?)あの時ね、確かに黒土だけど白州が混じって「北海道の土とは違うな」って琢にぃの言葉、覚えてますよ。この人すごいな、と思いましたから笑。
辰巳:子供の頃から地理とか歴史とか地学とか、とにかく好きでね。この歳になってワインもやりながらいろんなとこ行って、今具現化されてる。実際行ってみて触ってみて、あるいは舐めてみて(!)どんなもんかわかってくる。喜びなんですよ。
西:当時言ってましたよ「あ、こういう土だからサツマイモなんだな」って。すげぇなって思いましたよ。
辰巳:いや、覚えてないなー。でもま、それ以来のおつきあいですよね。その頃もう「富乃宝山」出したんでしたっけ?(西:頷)
そのあと、サツマイモのいろいろな品種について話した記憶があって
この男はよほどのオトコだなぁと思ったんですよ。
西:あの頃出会って琢にぃがいろんなワイン飲ましてくれたじゃないですか?あれが影響された。「ワインっていろんな(ブドウの)品種があって、こんなに味が違うんだ」って、それに面白さ感じちゃって。
自分に置き換えたら”芋”もいろんな品種があるんだと。アントシアニンがあったり、タンニンが濃いぃものがあったり、カロテンが多いものがあったり、、、。非常にヒントをいただきましたよ。
辰巳:じゃぁ今回ワイナリーをゲットしたっていうのは、20なん年前からその萌芽はあったってことですね?
西:影響受けました笑。
辰巳:そういう風に繋がってるってなんか嬉しいもんですね。ではワインを飲みながら乾杯したいと思います。
今回はアーラーのピノ・ノワールをご用意していただきました!
GLADSTONE URLAR ピノ・ノワール 2018
辰巳・西:ではでは乾杯!
辰巳:これはNZの北島にありますGLADSTONE URLARのピノ・ノワールです。
西:琢にぃの影響です笑笑。
辰巳:そう言われると嬉しいような、責任があるような・・・。
いいですね、まず美味いなと。
西:NZというよりちょっとフランスっぽくありません?
辰巳:んー、フランス、とはまたちょっと違う・・・?。まだNZのピノというのをまだそんなに飲み込んでないから・・・。ま、ブルゴーニュっぽいって人はいるでしょうけど。
西:アタランギ、美味いじゃないですか?実はアタランギを目指してて、そこがブルゴーニュタイプなんですね。ブドウの実だけで造るんじゃなくて全房でやってるんで。
辰巳:ブルゴーニュのピノって、一口飲んで美味いなっていうのがホントに少ないんです。日本のピノ好きはみんな1万円2万円3万円10万円、、、最初から高いワインを飲むからそりゃ美味しいかもしれないけど、
普通の(ACブルゴーニュクラス)ブルゴーニュ飲んで、そんなに美味しいと思わない。リスペクトはしてるけど、あえてブルゴーニュ飲もうとはしないんですよね。コストパフォーマンスとか考えるとハズレが多いから。こんな言い方すると失礼かもしれないけど。
西:わかりますよ。そりゃ万(福澤さん)出したらね、美味くなかったらウソだもん。
辰巳:レストランとかで万出してうまくないブルゴーニュなんてナンボでもありますよ。
西:それはもう残念ですよねー。
辰巳:ブルゴーニュが好きな人はね、”マゾ”ですね笑。「わ~ダメだこんなの」と思いながら、一回美味いの飲んだら「また次飲みたい」ってなって、またどんどんお金も使って新しいもの飲んでいくんでしょうけど、
当たりハズレでいうと当たる確率は低いと、俺は思ってるのね。そういう意味でNZのピノもまぁいろいろあるでしょうけど、まず美味い。
西:実だけで造ってるのも美味いし、全房で造ってるのも美味い。コスパもあるし。NZで1万円出したら相当美味いですから、ハンパないですから。
辰巳:でも最初美味いなと思ってたピノが、30分もするとガクーンっと落ちてくる。香りとか旨味がストーンっと落ちるってことが以前あって。これはなんなのかなぁって?
西:茎の焼き方、糖度、皮、タンニン・・・。ピークは出てるんだけども(上がる最初の数字はわかってるんだけども)それを目指してブドウを造っていかなきゃいけない。。。落ちるよね、開きがね、正直確かに落ちる。でもアタランギは落ちないんですよ。
辰巳:いや、アタランギも落ちた覚えが、、、昔ね。
西:そこんところを今研究、、、。僕ルロワとかああいう香り、コハク酸エチルがバァーッと出てくる熟成された香りが好きなんで、そっちにいきたくて今いろいろやってますけど、、、。
辰巳:樹齢もあるのかなぁ。
西:樹齢は確かにあるでしょうね、ミネラルの吸い上げ方が違うんで。
辰巳:これからなのかなぁって。長い目で見なきゃいけないものであってね。人間の寿命ぐらいはブドウの樹も生き続けるわけで。
西:清酒の純米大吟醸をお燗する人ってあんまりいないじゃないですか?冷やで飲む酒とお燗する酒とを明確に分けようと思ったのが最初でしたね。焼酎って同じボトル一本を「はい、お湯割ですよー」「水割りですよー」「ソーダ割りですよー」ってやっちゃうんで、、、。
辰巳:(思わず手を打って)これを!これを始めたのが・・・?
西:私です。味を変えられない焼酎メーカーって実はけっこう多いんです。黒麹白麹ってラベルに書いてありますけど、実際は麹で味は変わんないんだから。DNA的には黒麹白麹一緒ですから。これはクエン酸を出すか出さないか。でも黄麹は違う。
辰巳:で、黄麹で「富乃宝山」造ったんですよね?
西:(黄麹)全然違うんですよ。黒麹白麹で焼酎ブームになりましたけど実は味の差はないんです。この味の差がわかる人がいるとしたらほんとハンパないですよ。技術者的にもわかってるんだけど業界的には本当は言わない(言っちゃいけない?)ことなんです。
まぁ酔っ払ってるし笑。
辰巳:黄麹を使って造った「富乃宝山」はオン・ザ・ロック用、黒麹でお湯割り用「吉兆宝山」出して棲み分けた。
これがきっかけだったんだねー今考えると。
ある程度最初からマーケティング的な、俯瞰してみる目は最初から持ってたんでしょうね?
西:大学3年生の時、1級2級が終わったんですよ、清酒の。そして特定名称酒になった。本醸造や吟醸・・・。この時点でこんなに味の差があるんだなと(感じた)。でも焼酎は「何飲んでも味変わんなくない?」って同級生から言われたりとかね。それも悔しかった。
これは(焼酎も)ちゃんと酒質を分けて・・・。僕にとって「富乃宝山」は純米大吟醸の位置付け、値段は安いけれど。「吉兆宝山」はお湯割で本醸造、みたいなことを焼酎で表現したかったですね。
辰巳:でもそれは”当たった”わけじゃない?それからどんどんどんどん西酒造が伸びてきて、今や総合酒類メーカーを目指して・・・。
西:総合酒類メーカーじゃない、”総合的に酒を一生懸命愛して造ってる”会社笑。
辰巳:でも言えるのは基本的に原料を大事にしてる。だって田んぼ持って米から造ってる焼酎蔵ってなかなかないんじゃないですか?
西:米も芋も全部自前でやれてるメーカは多分うちだけだと思います。何百石とかになるとまた別ですけど。
辰巳:これがまずすごいことですよね。その(長である)西陽一郎が
”ブドウは日本じゃダメだ”と思っちゃったんだね?
西:スイマセンっ!
辰巳:いや、ここは謝られる部分ではないんだけど、その辺の判断は非常に冷静でいいと思ってるんですよ。今のグローバル市場にきちんと打って出られるワインも造りながら、でも日本独自のブドウで造るようなことはいずれしてほしいなぁと思ってるんですよ。
西:あーやりましょうかね。朝5℃、昼間30℃っていうこの(NZ)の寒暖差っていうのは日本では考えられないじゃないですか?(そういう環境下で)白は造りたいなと思ってるんですよ。
*
辰巳:今回はNZ、アーラーのオーナー、西酒造の西陽一郎さんをお招きしました。
辰巳・西:ありがとうございました!
News Data
- 八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」
2020年1月16日放送分
- ワイナリー
西酒造株式会社
鹿児島県日置市吹上町に1845(弘化2)年から続く焼酎蔵。焼酎を「日本古来の蒸留酒であり、世界に誇るべき文化である」と位置づけ、富乃宝山などの銘焼酎を造り続けながら、ニュージーランドの北島のワイナリー「GLADSTONE」を買収、
「GLADSTONE URLAR」として本格的にワイン産業に参入した。
西酒造HP:https://www.nishi-shuzo.co.jp
「GLADSTONE URLAR」HP:https://www.gladstone-urlar.com