宮城県仙台市にある日本屈指の温泉場、秋保。 この地に4年前に設立した「秋保ワイナリー」の代表、 毛利親房氏がゲストの2回シリーズ前編。
アメリカ生まれ、 建築を生業とするほぼ下戸がワイナリーを仙台秋保に興すことにな ったきっかけとは?
アワードを受賞したシードルをテイスティングしながらじっくり語 ります。
辰巳:今回のゲストは仙台の秋保ワイナリーの毛利親房さんです!
辰巳・毛利:よろしくお願いします!
辰巳:いまちょうどイヴェントが終わったばかりなんですよね。 今日は渋谷ストリームにありますエクセルホテル東急という今年で きたばっかりのホテル、
4階のバー&ダイニング「トレント」 というお店で秋保ワイナリーとのコラボがありまして。
私も参加して、そのまま残って毛利さんを捕まえて笑、 お話を聞こうと。そういう嗜好になっております。
この時期、 各ワイナリーが収穫時期でなかなか暇な人いないんですよ笑。 ちょうどこのイヴェントが東京であってよかったー!
秋保ワイナリー、正確には「株式会社仙台秋保醸造所」。 ワイナリーができて4年目、 まだまだ新しいワイナリーなんですが、
すでに3回ぐらいお邪魔してますし、色々ご協力いただいてます。 いろんな新しいワイナリーいっぱいできてますけど、
僕にとってはちょっと特別感あるワイナリーでして。 なんでだろう・・・?
毛利さんの人柄というか、雰囲気というか、、、 いつも困ったような顔してね、どうしようどうしようって。
なんかバリバリやるんじゃなしに、ワイナリーの経営者というか、 醸造家らしくない風貌。。。この辺りからいろいろ伺おうかと。
生まれ育ちは?
毛利:父の仕事の関係でアメリカのワシントン州、 シアトルで生まれてます。
辰巳:ほらほら、この辺からちょっと変わってますよね。 お父さんは何を?
毛利:医者です。
辰巳:お父さん、息子がどうなるか心配してたんじゃないですか? 放蕩息子だったんじゃ笑?
毛利:笑。でもあんまり勉強とか得意じゃないので、 早々に諦めてたみたいです笑。
辰巳:シアトルでいくつまで?
毛利:7つの時日本に帰ってきました。
辰巳:じゃぁ、もう英語はネイティブって感じですか?
毛利:ネイティブまではいかないんですけど、ま、 普通に話す分には支障はないので。
辰巳: さっきのイヴェントでゲストでいらしてたモンキーマジックのヴォ ーカリスト、ブレイズさん(カナダ人)と話してる時も、 流暢な英語で話してましたしね。
なんかいろんな顔を持ってるかたなんですが。お仕事、 もともとは・・・
毛利:もともとは建築の設計なんです。
辰巳: まさか自分がワイナリーを作るなんて思ってなかったと思うんです が、そのあたりどうなんですか?
毛利:きっかけは宮城県に女川町っていう所があって、 その駅の横に温泉施設があったんですね。
震災前、その設計を私が担当していて、 震災後その施設の調査をしに行ったんです。 ようやくガソリンが手に入ったので行ったんですけど、 もう町が壊滅していて。
とにかくなんとかしないと復興はできないなーと。 実はすごく建築って弱いなーと思ったんですね。
辰巳:人間の作ったものなんて簡単に自然の力で壊されてしまう。
毛利:そうです。いろんな復興会議にも出てたんですけど、 漁師さんとかいろいろ被災した方々にお話を伺った時に、
復興計画を作るにあたってアイディアが欲しいと言われていろんな 復興提案を作ったんです。
震災前宮城県にはワイナリーが一つだけあったんですけど、 それも津波で流されて、、、
辰巳:桔梗長兵衛?
毛利:はい。社長さんも亡くなって(宮城県の) ワイン産業が途絶えてしまったんで、そのワイン産業の復活と、 ワインと食との結びつきの強さを生かしたマリアージュ、
宮城県の食の生産者の応援をしようと。 もう一つは宮城県にワイナリーを増やしてワインツーリズムを始め る。
たくさんの方を国内外から観光で来ていただいて、 さらに宮城の職に触れていただくという提案をしたんです。
ところが、新しい産業を興すという余裕が実際にはなくて、 皆さん一定の理解は示すんですけど、 目の前の課題が山積みの状態の中で、 実際にワイナリーを立ち上げるっていうのは難しくて。
であれば民間でこのプロジェクトを進めていこうと、 ワイン造りも何もわからない状態で動き始めたんです。
辰巳:つまり、震災復興の計画を作ったものの、 みんな褒めてはくれるけど自分が! と手を挙げる人がいなかったと?
毛利:そうです。 ある復興会議で牡蠣の漁師さんたちと話す機会があって「 販路が絶たれてるので漁を再開したはいいけど売り先がない」 とか「風評被害で売れない」ていう話があったんです。
じゃぁどうやってPRするかって話になって、「 牡蠣と一緒にワインを海中に沈めて、 海中熟成ワインを造って牡蠣のPRをしよう」 という話をしたんですね。
で、会議が終わって漁師さんたちが僕のところに駆け寄ってきて、 「震災後に何もいいことなかったけど、 今日オレたちワクワクした。 オレたちも頑張るからアンタも頑張ってくれ!」 と言ってきたんです。
辰巳:それは震災の年ですか?
毛利:そうです。だからなんとかしなきゃなぁ、 という思いがあって、、、。
辰巳:その海中熟成ワイン(の存在)は知ってたんですか?
毛利:いろいろ提案するためにリサーチはしてました。 ヨーロッパでは沈没船からワインが発掘されて美味しくなってたと か、
今では(ヨーロッパやアメリカでは) ワインをわざと海中に沈めてる。ならば試してみようと。それで、 漁師さんたちとタッグを組んだんです。
辰巳:やったんですか!?それはどこのワインだったんですか?
毛利:うちの甲州、2016年のヴィンテージを沈めました。
辰巳:美味しくなってました?
毛利:なってました!とあるワイン会で、 セラーで保管していたワイン(同じヴィンテージの同じワイン) と海中熟成したものの飲み比べをやってんですけど、 ぜんぜん味が違うんです!
僕らもいろいろ調べたんですけど、 海の中の方が熟成が早く進むって言う風に(ある文献に) 書いてあったんです。
水圧もありますし、僕らは養殖棚に吊り下げたので、 海の揺らぎがゆりかごのように・・・。
で、実際に開けたら、、、色もちょっと違ったんですね。(水深) 20mくらいのところに沈めたんですけど、
太陽光が若干入ってるので、そういった影響もあるのかどうか。 ただ、ホントに熟成が進んでる感じでした。
辰巳:なんかね、 毛利さんこんなにいろいろしゃべってますけどね、 お酒強くなくて、ワインも詳しくなくて、 門外漢の建築家がワインの世界に入ってきた。
これってホントに面白い。 人生ってわからない感じがしますよねー。
ちょっとこれからはワイン飲みながらお話ししましょうか。 今日はですね、シードルを持ってきていただきました! 説明していただけますか?
毛利:はい、今日は2種類持ってきました。一つは辛口( ブリュット)、もう一つは中甘口(ドルチェ)です。
(先ずはブリュットから。辰巳さんが栓を抜き、注ぎます。 栓は王冠です。)
秋保ワイナリーシードル 辛口
シュワシュワといい音をマイクで拾います
辰巳・毛利:乾杯!
辰巳:日本のシードルって、 スペインやフランスのに比べてどうしても酸が少ないんですよ。
この酸をどうやって残すか? 各所で補酸したりして苦労してるんですけど、 これは酸がきちんと残ってますよね。
毛利:そうですね、ま、 酸味がわりかしある紅玉とジョナゴールドと、
あとはサワールージュという酸味が強いリンゴを宮城県が開発して いて、最近は少しづつ収量が増えてきたのでこれを使っています。
辰巳: サワールージュっていうのはシードルを造るために開発された?
毛利:当初はワイン(含シードル) 産業がまだ広がってなかったので、 どちらかというと加工用のスイーツなどのために開発されたリンゴ なんです。
辰巳:もちろん地元産(宮城県)なんですよね? なかなかいいですね、これ。
毛利:ありがとうございます!
辰巳:補糖・補酸は?
毛利:補糖は瓶内二次発酵の時にしかしてないので、 基本的にはしてないです。アルコール度数が8.5%。ドルチェは 7.5%。ドルチェは補糖してます。
辰巳:美味しい!コンクールで賞獲ったんですよね。
毛利:はい、ジャパン・シードル・アワードというのがあって、 今年の8月に発表があったんですけど、
国内の辛口の500ml以下(秋保のシードルは375ml) の部門で最高評価の三つ星をいただきました。
あとは青森(弘前)のシードルが三つ星でしたね。 森山園っていうサイダリーのテキカカシードル。摘果(間引き) をした・・・
辰巳:熟す前に間引きした酸っぱいリンゴを使っている・・・
毛利:私も飲んだんですけど美味しかったです。
辰巳:シードルもどんどん進化してきましたね。
辰巳:ちょっと話が飛んじゃいましたけど、 7歳までシアトルにいてそのあとは?
毛利:そのあとはですね、 宮城県仙台市に小学校2年から5年の2学期の終わりまで。 そっからまた転勤で、山口県の宇部市というところに。
辰巳:宇部にいたんですかー!?へぇぇぇ!?
毛利:大学は東京だったんですけど、高校卒業まで宇部でした。
辰巳:じゃ、思春期は長州の人だったんだ。 お父さんはお医者さんって言ってましたけど?
毛利:はい、大学の勤務医だったので東北大学(仙台) と山口大学(宇部)に勤めてたんです。
辰巳:ご自分のルーツはこのうちのどれですか?
毛利:まぁシアトルは小学生の頃なので、 記憶も断片的なところもあったり、 青春時代の果敢な時期は山口だったんですけど。
ただ大学時代に実家が山口から仙台にまた戻って、 そっからもう30年ぐらいになるので出身地は?
と聞かれるとちょっと困ってしまうんですね笑、 どう言えばいいんだろうって。 だからちょっとめんどくさい時は仙台って笑。
辰巳:例えば高校野球なんかはどこを?山口?
毛利:はい、山口応援しますね笑。
辰巳: いろんなところが積み重なって人間ってのはできてくるんでしょう からね。今日初めて青春時代が山口だったってのも知ったし。
(話変わります)
お酒初めて飲んだのはいつですか?
毛利:えっ(焦)!? 多分高校卒業した時にみんなでちょっと舐めた記憶があります。
辰巳:そんなもんですか?可愛いもんですねー笑。 僕ら小学校の時からなんか舐めてましたけどね笑。
自分がお酒弱いなーと自覚したのはいつですか?
毛利:えーとですね、 中学校から大学までずーっと剣道をやっててですね、 大学に入った時の飲み会でとにかく大変な思いをしてですね笑( 先輩方に大量に飲まされたんでしょうか?)。
そのうち慣れると言われながらも、 アルコール耐性がぜんぜんないことがわかって、 そこからもう控えるようにしてますね笑。 気持ち悪くなる前に具合が悪くなってしまうので。
辰巳:そんな人が今やワインを造って! これはホントに不思議な巡り合わせというしかないですね。
(次はシードルドルチェをテイスティングです)
秋保ワイナリーシードル 中甘口
辰巳:ではこちらの方でも乾杯しましょう。
辰巳・毛利:乾杯!
辰巳:これも同じブドウですか?ぁ、ブドウじゃない、 すぐブドウって言っちゃうな。(辛口と) 同じリンゴの品種ですか?
毛利:品種は同じものを使ってるんですが、 ブレンドの比率がだいぶ違ってて、 甘口はフジを主体に造ってます。
辰巳:甘味がないほど酸味が欲しくなってくるんですけど、 甘味があるとそれほど酸がなくてもバランスが取れる、 そういう細かい配慮がある感じがします。
今年の収穫はどういう感じですか?いい感じ?
毛利:実は今週末から収穫がスタートするんですよ( ラジオの収録は9月25日、水曜日でした)。
辰巳:そうなんですか。収穫が終わって、 仕込みが終わったあたりの10月21日に僕も(ワイナリーに) 行きますので。
イヴェントを今考えてるんですよね。 どんなイヴェントになりそうですかね?
毛利:若い漁師さんたちでやっている” フィッシャーマンジャパン”と、仙台牛の生産者、
それからシードルのリンゴを提供してくださったリンゴ農家さんに お越しいただいて、 ペアリングをいろいろ楽しみたいなぁと思っています。
辰巳:いいですねー。秋保ワイナリー、秋保温泉近辺でやります!
場所は?
毛利:秋保舎という古民家レストランで。
辰巳:僕も楽しみにしてます!この日は泊まって翌日( 即位礼正殿の儀で祝日) はワイナリー見学などのエクスカーションも考えてるんですよね。
ラジオをお聴きのみなさま、ぜひぜひお越しください。
(意気込んでいた上記イヴェントでしたが、 台風19号の影響で残念ながら延期となってしまいました。 幸いワイナリー自体は大きな被害はなかったようです。
再開催が決まりましたら「日本のワインを愛する会」HP及びメー ルマガジンにて改めてお知らせいたしますのでしばしお待ちくださ い。)
辰巳:今日は渋谷ストリームにできました新しいホテル、 エクセルホテル東急のバー&ダイニング、 トレントの中で収録しました。また次回もよろしくお願いします!
辰巳・毛利:ありがとうございました!
News Data
- 八王子FM「辰巳琢郎の一緒に飲まない?」
2019年10月3日放送分
- ワイナリー
秋保ワイナリー
2015年12月設立。「究極のマリアージュは産地にあり」を謳い、ワインと地元食材を合わせた「テロワージュ」(テロワール×マリアージュ)を推進している。
ワイン産業の持つ力を活かし、人・文化・産業をつなぎはぐくんでいくことを目指す。
http://akiuwinery.co.jp